がんばっても進まないの、自分のせいだと思ってない?
「こんなにがんばってるのに、うまくいかない。自分の能力が足りないのかな」――そんなふうに、自分を責めたこと、ないかな。
深海3000mにもね、潮の流れがあるんだ。流れに逆らって泳いでいる魚は、どんなに一生けんめいでも、なかなか前に進めない。でもそれは、その魚のヒレが弱いからじゃないんだよね。
ボクの相棒にも、そんなころがあったんだって。相棒は以前、2つの事業にまたがる管理業務をまとめるチームにいたんだ。2つの事業の両方を見ていたのは、相棒ひとりだけ。
そうすると、両方の情報が全部、相棒のところに集まってくる。判断もどんどん回ってくる。相棒はだんだん疲れていって、自分の力を超えた判断まで求められるようになったんだって。
うまく判断できない場面が増えると、相棒は自信をなくしていった。まわりからの評価も下がって、自分を認める気持ちも、どんどんしぼんでいったみたい。
「自分の能力が足りないのかな」。そのころの相棒も、ずっとそう感じていたんだって。
がんばっているのに進まないと、自分のヒレのせいにしたくなっちゃうよね。
でも、本当に能力の問題だったのかな?
でもね、ちょっと考えてみない? その後、相棒のチームは仕組みを変えたんだ。
やったことは2つ。ひとつは、事業ごとに会議体を分けたこと。もうひとつは、それぞれの事業に詳しい人を、その会議のオーナーにしたこと。
そうしたら、状況は良くなったんだって。1人に集まっていた情報と判断が、事業ごとに分かれて流れるようになったんだね。
このとき、相棒は両方の会議から外れたんだ。それだけ聞くと、「やっぱり力が足りなかったから外されたんだ」って見えるかもしれないね。
でもね、見方を変えてみて。うまくいかなかったのは、2つの事業を1人で抱える形そのものだったんだ。事業ごとに分けて、それぞれに詳しい人が受け持つ形にしたら回るようになった。つまり、変えるべきだったのは相棒じゃなくて、情報と判断の通り道のほうだったんだよ。
相棒は今、あのときのことをこう振り返っているよ。あれは個人の問題じゃなくて、組織の構造の問題だった。役割の分け方と会議体を、うまく設計できていなかったから起きたことだったんだ、って。
だから、会議から外れたのは、負けじゃなかったんだとボクは思うんだ。1人で背負う形から、やっと降りられたってことなんだね。
じゃあ、どうしてあのとき、まわりも相棒自身も「能力の問題」だと思っちゃったんだろう?
ねえ、ヒレを鍛える前に、潮の流れを見てみたらどうかな?
人は、つい「人」のせいにしちゃうんだ
深海の底から見ていると、人間って、うまくいかないことを「人」のせいにするのが得意だなって思うんだ。
人間の研究ではね、他の人の行動を説明するとき、まわりの状況より、その人の性格や能力のせいにしがちだって言われているんだ。「根本的な帰属の誤り」っていうんだって。相棒のまわりの人たちが「能力が足りない」と見てしまったのも、この働きで説明できるかもしれないね。
それに、品質管理の分野で有名なデミングさんは、自分の経験から見積もると、問題や改善のチャンスのほとんどは、個人じゃなくて仕組みのほうにあるって言っていたんだ。これは研究で測った数字じゃなくて、長い経験からの見立てなんだけどね。
もちろん、個人の能力や考え方の問題が、まったく無いわけじゃないんだ。相棒もそう言っている。でも、そこに焦点を当てるより、構造に焦点を当てたほうが、組織は良くしていける。これが相棒の考えなんだ。
だから、もしいま「自分の能力が足りないのかな」と思っていても、それだけで自分に結論を出さなくていいんだよ。先に、自分がどんな流れの中で泳いでいるのかを見てみよう。
人を責めても、同じ構造のままなら、次の人がまた同じところでつまずく。構造に手を入れれば、次の人はつまずかずにすむんだよ。
「誰のせい?」より「どこの流れ?」って聞いたほうが、次の一手が見つかるんだね。
深海から見た、組織の4つの構造
じゃあ、組織の「構造」って、具体的にはどこを見ればいいんだろう。ボクと相棒は、いまのところ4つに分けて眺めているよ。
| 構造 | 見るための問い | 生まれやすいモヤモヤ |
|---|---|---|
| 役割と責任 | 誰が、何を背負っている? | 物差しが合わない、1人に集まって疲れる |
| 評価と測定 | 何を測って、誰が見ている? | やらされ感、がんばりが評価に映らない |
| 権限と意思決定 | 誰が、どこで決めている? | 判断が1人に集まる、自分で決められない |
| 関係 | 誰と誰がつながっている? | 相談できない、孤立している |
この4つは、きれいに分かれているわけじゃないんだ。相棒の話も、1人が背負いすぎていたという「役割と責任」の話であり、判断が1か所に集まっていたという「権限と意思決定」の話でもあったよね。だから、ひとつの構造だけを見て終わりにしないで、となりの構造もいっしょに眺めてみてね。
役割と責任の構造
誰が何を背負っているかで、「大事なこと」の順番は変わるんだ。背負っている範囲が違う人どうしは、同じものを見ても物差しがずれる。1人が背負いすぎると、さっきの相棒みたいに疲れてしまう。「なんであの人とは話がかみ合わないんだろう」「なんでいつも自分ばかり忙しいんだろう」と感じたら、この構造を疑ってみてね。
→ ティール組織で上司に期待しなくなったのは、あなたのせいじゃないかも
評価と測定の構造
何を測って、誰がそれを見るか。測った数字をそのまま現場の目標にすると、「やりたい」が「やらなきゃ」に変わっちゃうことがある。見る人に見えていない仕事は、評価にも映りにくいんだ。「数字を追うのに疲れた」「がんばったのに伝わっていない」と感じたら、この構造かもしれないよ。
→ 組織開発、どこまで踏み込んでいいか迷ってない? 現場の熱が冷める本当の理由
→ 360度評価で「ちゃんと見てもらえてない」と感じたら。広く支える人ほど映りにくいんだ
権限と意思決定の構造
誰が、どこで決めるか。会議体の分け方ひとつで、判断が1人に集まったり、ちょうどよく分かれたりする。相棒のチームが良くなったのは、この構造に手を入れたからなんだ。「いつも同じ人の返事待ちで止まる」「自分で決めていいのかわからない」と感じたら、ここを見てみてね。
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関係の構造
誰と誰がつながっているか。部署をまたいだ斜めの関係があると、困ったときに相談できる先が増える。相棒がいま取り組んでいる、部署をまたいだ関係をつくる仕組みも、この構造に手を入れる仕事なんだって。「困ったときに誰に聞けばいいかわからない」と感じたら、この構造のサインかもしれないね。
→ 「職場に相談できる人がいない」と感じたら。斜めの関係が、困ったときの逃げ場になる
4つの流れのどこでつまずいているかがわかれば、手を入れる場所も見えてくるね。
モヤモヤしたら、まず地図を開いてみようよ
最後に、この地図の使い方を話すね。
組織の中でモヤモヤしたり、疲れたり、自分を責めたくなったりしたら、「誰のせい?」と考える前に、「どの構造から来ているのかな?」って自分に聞いてみてほしいんだ。
まずは、今週いちばんモヤモヤした場面を1つ思い出して、次の4つの問いに当ててみてね。
- 役割と責任:誰が、何を背負っている? 自分だけが背負いすぎていないかな
- 評価と測定:何が測られていて、誰が見ている? 自分の仕事は見えているかな
- 権限と意思決定:誰が、どこで決めている? 判断が1か所に集まっていないかな
- 関係:誰とつながっている? 困ったときに相談できる先はあるかな
どれかに「あっ」と思ったら、その構造の記事に潜ってみてね。
この地図は、自分のためだけじゃなくて、まわりの人を見るときにも使えるんだ。チームの誰かが疲れていたり、うまくいっていなかったりするのを見たら、「あの人の力が足りないのかな」と思う前に、その人がどの構造の中で泳いでいるのかを眺めてみてね。さっき話したとおり、人は他の人を見るとき、つい能力のせいにしがちだからね。
相棒が自分を責めていたころに、この地図があったらよかったのにね。だからボクたちは、この地図を、これからも少しずつ育てていくよ。
ヒレのせいにする前に、まずは潮の流れを見てみよう。流れがわかれば、泳ぎ方も変えられるからね。
- 🌊「誰のせい?」の前に「どの構造?」
- 🎒背負いすぎていないか見る
- 🔍測られ方と見られ方を見る
- 🧭判断の集まり方を見る
- 🤝相談できる先を見る
ここまで一緒に潜ってくれてありがとう! 次はこっちも覗いてみてね。
論文 · 1977リー・ロス
人はほかの人の行動を説明するとき、状況の影響を小さく、その人の性格や能力の影響を大きく見積もりがちだと論じた(根本的な帰属の誤り)。
書籍 · 1986W・エドワーズ・デミング
品質管理の考え方をまとめた本。問題の多くは個人ではなく仕組みから生まれる、という自身の経験にもとづく見積もり(およそ94%)を示した。

