ティールに惹かれたけど、うまくいかなかった話も知りたくない?
「こんな組織、うちでもつくれたらいいな」。本や勉強会でティールを知って、胸が熱くなった人事のお姉さんがいるんだ。でも、出てくるのは理想の話ばかり。社内で言い出す前に、うまくいかなかった話も知っておきたい。旗を振ったあとでつまずいたら、どうしよう。そう思って「ホラクラシー 失敗」って検索してる。
深海の魚の群れが向きを変えるところ、見たことある? 何百匹もいるのに、ぶつからずにくるっと曲がるんだ。あれは、となりとの距離のとり方を、みんなが先にそろえてあるからなんだよ。上がいなくなれば、あとは自然に動ける、ってわけじゃないんだね。
ボクの相棒も、ティール組織を掲げる会社で組織開発をしているんだ。だから「どんなつまずき方があるのか、先に知っておきたい」って、いろんな会社の話を調べてたんだって。一緒に見てみよう。
ねえ、つまずいた会社の話って、こわいけど一番の教科書じゃない?
ねえ、ホラクラシーって“失敗”したの?
最初に、言葉をひとつそろえておくね。ティールは組織のあり方を描いた考え方で、ホラクラシーはそれを形にするときに使われることがある具体的な運用ルールなんだ。違いはティール組織のまとめ記事にも書いたよ。
そのうえで、上司の指示を待たずにチームや一人ひとりが決めて動く組織(「自分たちで決める組織」って呼ぶね)を試した、4社の「その後」を並べるね。ザッポスと Medium はホラクラシー、Buffer と Yops は自分たちなりのやり方だけど、つまずき方は比べられるんだ。
ザッポス(米・靴の通販):辞める道を示して、仕組みを足して続けた
ホラクラシーへの切り替えを進めていた2015年3月、ザッポスは全社員にメモを出したんだ。「このやり方が合わない人は、4月末までに決めれば、少なくとも3か月分の退職金を受け取って辞めていい」。約1,500人のうち、約210人(約14%)がこの申し出に応じたんだって。
それでもザッポスはやめなかった。そのあとは、チームを社内の小さな事業のように動かして、お客さんや社内のやりとりから予算を稼ぐ仕組みを足していったんだ。
Medium(米・ブログサービス):数年使って、やめた
Medium は2012年からホラクラシーを使っていたんだ。でも2016年3月にやめると発表した。運営の責任者は「失敗したからではなく、会社が変わったから」と説明しつつ、「小さいけれど続く税金のように、仕事の進みと、互いのつながりを削っていた」とも書いているよ。部門をまたぐ大きな案件で調整に時間がかかったことや、役割を細かく書き出すほど「みんなで持つ」感覚が薄れたことも、理由に挙げられているんだって。
Buffer(米・SNS投稿ツール):「ティールの実験」のあと、形を戻した
Buffer は2015年、自分たちで「ティールの実験」と呼んだやり方を試したんだ。長く続くチームをやめて、誰でも作れて誰でも入れる、案件ごとのチームに切り替えた。目標や数字で追いかけることも、ほとんど手放したんだって。
でも、チームの数が増えすぎて、誰が引っ張るのかがあいまいになった。そこで長く続くチームに戻し、目標と数字を立て直して、1on1も戻したんだ。それでも、肩書きとしての管理職はいまも置いていない、と書いているよ。
Yops(仏・乳製品):一気に階層をなくして、3年で戻した
Yops は社員80人ほどの会社。2013年1月に全社に伝えて、9月には経営陣と管理職の階層をまとめてなくしたんだ。でも、立場の矛盾に置かれた中間管理職の抵抗が、少しずつ強まっていった。2016年にこのやり方を終えて、階層を3段で戻したんだって。ただ、自律を大事にする言葉や関わり方は、一部残したそうだよ。
続けた会社も、やめた会社も、形を変えた会社もある。「ホラクラシーは失敗した」とひとことでは言えないんだよ。

でもね、つまずいた場所を並べると、似てるところがあるんだ。
4社のつまずきを並べると、4つの型が見えてくるんだ

型1:支え役が消える
Buffer の共同創業者は、試したあとに「経営、スキル、リーダーシップ、経験という考えまで捨ててしまった」と振り返っているんだ。そこで、メンターとの1on1を戻したんだって。自分たちで決めるチームの研究でも、成果を出すチームほど、外とのあいだをつなぐリーダー役が働いていたんだ。上司をなくすことと、上司がしていた支えをなくすことは別なんだね。空いている役割の席の記事でも見たね。
型2:誰に聞けばいいか見えなくなる
Buffer は案件ごとのチームで誰が引っ張るのか見えなくなって、「構造と階層は別物だった」と振り返ったんだ。ホラクラシーを入れた組織への小さな聞き取りでも、役割のあいまいさと調整の複雑さが弱点に挙がっているよ。仕組みを変えても、「どうせ自分では決められない」っていう長年の感覚が残ることがある、という報告もあるんだ。「これ、誰に聞けばいいの?」って声が出ていないか、気にしておきたいね(見えない権力の記事も見てみてね)。
型3:決めるのに時間がかかる
Medium の「部門をまたぐ大きな案件」の話がこれだね。現場に決める力を移すと、納得は増えるけれど、決定には時間がかかりうるんだって。ホラクラシーはみんなの合意で決めるしくみではないけれど、フラットな組織で「みんなの納得を待ちすぎる」話はグリーンの罠の記事に書いたね。速さと納得、どの場面でどっちをとるかを先に決めておきたいね。
型4:一気に切り替えて、揺れが大きくなる
ザッポスでは、申し出に応じた約14%のほかに、あとで約18%という数字も出たけれど、そこには別の理由の離職も入っているんだ。Yops は数か月で階層をなくして、中間管理職の抵抗が強まっていった。どちらも一斉に切り替えた例で、ゆっくり入れた会社と比べた研究じゃないけれど、切り替えの速さも選ぶものなんだね。
相棒は、型1から型3を読んで、ふだん感じていることと重なると思ったんだって。管理職をなくした組織では、支える役割まで一緒に手放されてしまうことが起こりうる。役割が変わりやすいと、誰を巻き込めばいいか見えにくい。みんなの声を大事にするほど、なかなか決まらないこともある。だからこそ、型を先に知っておきたかったんだね。
失敗は“やめること”じゃなくて、“足りない所が見えること”だったんだね
ザッポスが仕組みを足して続けたことを、国内の会社と比べた研究でも、ホラクラシーはそれだけでは完結しなくて、足りない所を補う仕組みがいる、って分析されているよ。海外だけの話じゃないんだね。Yops も階層を戻しながら、自律を大事にする言葉や関わり方は一部残したんだって。
旗を振る人ほど「失敗したら自分のせいかも」って思っちゃうよね。でも、4社のつまずきは、誰か一人の判断ミスというより、自分たちで決める組織を試した会社で何度も出てきた形なんだ。形がわかっていれば、先に手を打てる。いますぐ「入れる・入れない」を決めなくていいんだよ。

つまずきは、「支え役・役割・決め方・切り替えの速さのどこが足りなかったか」を教えてくれる手がかりなんだ。
- 🐋支え役:上司がしていた支え(評価や1on1も含めて)を、誰が担う?
- 🫧役割の地図:誰に聞き、誰を巻き込めばいいか見える?
- 🐚決め方:誰が、いつまでに決める?
- 🌊速さ:どのくらいの速さで切り替える?
社内で言い出す前に、4つの問いを書き出してみようよ
まずは今夜、4つの問いを1枚のメモに書いて、うちの会社ならいまどうなっているかを一言ずつ書き込んでみてね。 埋まらない所が、先に手当てする所だよ。
社内で話すときは、そのメモを持っていこう。理想だけを語ると「うちには無理だよ」で終わっちゃうけど、「ザッポスたちがつまずいた4つの所を、先に一緒に確かめておきたいです」なら、足元を見た提案として聞いてもらえるよ。
群れがぶつからずに向きを変えられるのは、距離のとり方を先にそろえてあるからだったね。4つの問いは、その決まりの下書きなんだ。

ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現
組織のあり方を色で5つの段階に分けて、ティールの組織の特徴を描いた本だよ。ホラクラシーを入れる前に、そもそも何を目指す考え方なのかを原典で見ておくと、手段と目的を取り違えにくくなるよ。
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ここまで一緒に潜ってくれてありがとう! 次はこっちも覗いてみてね。
書籍 · 2018フレデリック・ラルー
組織のあり方を色で5つの段階に分け、自主経営・全体性・存在目的を特徴とする「ティール(進化型)」の組織を、実際の企業の例から紹介した本。
ラルー, F.(2018)『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(鈴木立哉 訳, 嘉村賢州 解説). 英治出版.
公式文書ホラクラシーワン社
ホラクラシーの運用ルールをまとめた「憲法」。役割・サークル・会議の進め方などを定めている。ホラクラシーは同社の商標。
報道 · 2015フォーチュン
ザッポスが2015年3月、自己管理が合わない人に退職金つきで辞める道を示し、約1,500人のうち約210人(14%)が応じたと伝えた。
Fortune (2015, May 8). Zappos offered employees money to quit. Over 200 did.
報道 · 2016フォーチュン(ジェニファー・レインゴールド)
Medium が2016年にホラクラシーをやめたことと、運営責任者の「失敗したからではない」「小さいが持続的な税金になり、仕事の邪魔になっていた」という説明を伝えた。
Reingold, J. (2016, March 4). Medium gives up on holacracy. Fortune.
公式ブログ · 2015バッファー社
上司を置かない自己管理を試した結果、誰が引っ張るのか曖昧になって混乱したこと、長期のチーム・1on1・メンター・目標を戻したこと、それでも正式な管理職は置いていないことを振り返っている。
Buffer (2015, October 15). Self Defined Self Management. Buffer Resources.
論文 · 2003ドラスカットとウィーラー
自己管理チームの外側にいるリーダーへの聞き取りから、成果を出すリーダーは、チームと組織のあいだを行き来して関係をつくり、情報を集め、双方を説得していたことを示した。
論文 · 2026アリアガほか
ホラクラシーを入れた6つの組織の9人に話を聞き、役割のあいまいさと調整の複雑さを弱点として挙げた研究。分散した意思決定には素早く動ける面もあるとしている。
論文 · 2026ヴァルキアイネン
長年の階層で身についた無力感が、分けられた権限を使うことを妨げると報告した研究。役割と責任の明確さなどが条件になり、構造を変えるだけでは足りないと結論づけた。
論文 · 2021アッカーマンほか
ホラクラシーを入れたメルセデス・ベンツのデジタル部門を調べ、決める力が現場に近い人に移ると納得は高まるが、意思決定は遅くなりうることを示した。
論文 · 2025ブルリエ・バルグほか
フランスの乳製品会社が管理職の階層を一斉になくしたあと、中間管理職の抵抗が段階的に強まり、2016年に自主経営を終えて階層を戻した経過を、4年の観察と38件の聞き取りから描いた。
論文 · 2025平松と古賀
ザッポスと国内企業の2社を比べ、ホラクラシーはそれだけでは完結せず、戦略とつなぐ補助の制度(社内の市場の仕組み、顧客主導の予算など)が要ると論じた。
平松由布季・古賀健太郎(2025)「ホラクラシー導入の成功を支える補助的制度 ─Zappos.comと株式会社Plottの事例からの示唆─」『開発工学』45(1), 11–15.
解説記事ウィキペディア(英語版)
ホラクラシーの概要と導入企業の例をまとめた項目。Medium がやめた理由として、部門をまたぐ大きな案件で調整に時間がかかったことなどを挙げている。
報道 · 2016HRダイブ
ザッポスの退職者が累計で約18%になったと伝えた。後半の離職には、Amazon の基盤への移行に関わる人の離職が多く含まれるとしている。
HR Dive (2016, January 14). Zappos’ workforce exodus continues, hits 18%.
この記事を書いたふたり

相棒の実体験に、研究でわかっていることを重ねて書いています。内容の誤りに気づいたら、お問い合わせから教えてください。
