「自分で考えてやって」って言われても、しんどくない?
大きな仕事を任されて、どう進めればいいか相談したら「で、あなたはどうしたいの?」と返されて終わった。……そんな経験、ない? そんな夜に、ふと思うんだよね。うちってティール組織らしいけど、これがティールなの? って。
深海3000mにはね、何千匹もの群れで泳ぐ魚がいるんだ。リーダーがいないのに、ぶつからずに向きを変える。でも、それぞれが勝手に泳いでいるわけじゃないよ。となりの仲間との距離や、水の流れをいつも感じ合っているから、群れでいられるんだ。
相棒は、自律型の組織で大きなプロジェクトを任されたことがあるんだって。でも、そのあとはほぼ放置。「自分で考えてやって」という空気の中で、自分の力を超えた範囲まで抱えることになって、かなりしんどかったって言ってたよ。
自律を大事にする職場では、「あなたはどうしたいの?」という問いかけは増えても、何を期待しているかは言葉になりにくいことがある。相棒には、そう見える場面があるんだって。自分で課題を見つけて動く人はいるけれど、それが成果につながりにくいこともあるように見える、とも言ってたな。
ねえ、しんどいのは、あなたの自律が足りないからなのかな?
ねえ、ティール組織って、そもそも何なの?
「ティール組織とは」で調べると、よく出てくるのは「上司がいない組織」「一人ひとりが自分で決める組織」っていう説明なんだ。間違いじゃないけど、それだけだと大事なところが抜けちゃう。
ティール組織は、フレデリック・ラルーさんが2014年の本で紹介した言葉だよ。ラルーさんは、人類の組織のあり方が、時代とともに段階を経て変わってきたと考えた。力で率いる「レッド」、決まりと序列の「アンバー」、成果を競う「オレンジ」、みんなの合意を大切にする「グリーン」。その先にある段階を、青緑色(ティール)で表したんだ。
そのティールの組織に共通する特徴として、ラルーさんは3つを挙げているよ。
| 特徴 | ざっくり言うと |
|---|---|
| 自主経営(セルフ・マネジメント) | 上下の命令ではなく、仲間どうしの関係の中で決めて動く |
| 全体性(ホールネス) | 仕事用の仮面をはずして、まるごとの自分で働ける |
| 存在目的 | 組織がなぜあるのかに耳をすませて、進む方向を決める |
だから、ティール組織を簡単に言うと、「上司がいない組織」じゃなくて、「組織の存在目的に向かって、一人ひとりが仲間と支え合いながら決めて動ける組織」に近いんだ。上司がいないのは、そのための仕組みの一部なんだよ。
上司がいるかどうかは、入口の話だったんだね。
「それって本当にティール?」3つの問いで確かめてみよう
じゃあ、自分の職場が本当にティールなのか、3つの問いで潜ってみよう。
問い1:上司がいなければ、ティールなの?
ラルーさんが紹介した組織には、上司をなくしたかわりに、自主経営を支える仕組みがあったんだ。たとえば、決める前にまわりへ助言を求める決め方。
オランダの在宅ケアの組織ビュートゾルフには、仲間どうしで学び合う場があったんだって。意見がこじれたときは、まず当事者どうしで、だめなら仲間に間に入ってもらう、と段階を踏んで解く手順もある。最後まで解けないときは、創業者が関わる段も用意されていたんだ。
つまり、上司がいないことと、支えがないことは別。役職はなくせても、役割はなくならないんだ(役割の席の話はこちら)。あなたの職場では、困ったときの相談先、決まってる?
問い2:みんなで決めれば、ティールなの?
全員の納得を待つのは、じつはひとつ前の「グリーン」の考え方に近いんだ。ティールでは、意見を聞いたうえで、担う人が決める。くわしくは「グリーンの罠」の記事で潜ったよ。
問い3:ティールって、ホラクラシーと同じなの?
ホラクラシーは、権限を人ではなく「役割」と「サークル」というチームに割り振る、具体的な運営のルールだよ。ティールは、組織のあり方そのものを描いた言葉。ホラクラシーはティールに近づく道具のひとつ、と考えるとわかりやすいんだ。
3つの問いを潜ってみると、もうひとつ疑問がわいてくるよね。じゃあ、なんで「任せっぱなし」が起きるんだろう?
相棒は、理想や戦略と、現場をつなぐ役割がうまく働いていないからじゃないか、と感じているんだって。つなぐ役割が空いたまま「自律」という言葉だけが残ると、問いかけるだけ、任せるだけになりやすいんだ。肩書きがなくなると、力が見えなくなることもあるしね。
仕組みがないまま「自律して」って言われたら、迷子になるのも当たり前だよね。
指示か任せるか、どっちかが正解じゃないんだね
相棒の職場では、「1on1は成果につながっているの?」という問いから、1on1などを減らして、KPIを追う形に変えてきた部署もあるんだって。部署ごとに、手探りでやり方を変えているんだ。
これ、「ティールの失敗」なのかな? ボクはそうとも言い切れないと思うんだ。
ある会社の現場で、指示をはっきり出すリーダーと、任せて力を引き出すリーダーを比べた実験があるよ。どちらのやり方でも、仕事の基本は身につきやすくなった。自分から新しい工夫をするようになったのは、任せるリーダーのチームだったんだって。どっちかが正解なんじゃなくて、効くところが違うんだね。
たくさんの研究をまとめた分析でも、任せることが成果につながるには、リーダーへの信頼が関わっていたんだって。
相棒も、職種や仕組み、メンバーの成熟度によっては、KPIを追う形のほうが合う場面もあると考えているんだって。相棒が思うティールは、ボトムアップだけを大事にする組織じゃなくて、トップダウンとボトムアップを手段として使い分けながら、変化に強く、速く、自分たちで決められる状態なんだ。
それにね、ティール組織の効果を確かめた研究は、まだ多くないんだ。ラルーさんが紹介した12の組織のうち2つは、リーダーが替わったあとに元のやり方へ戻ったんだって。「ティール」はゴールの名前じゃなくて、組織を見るための地図なんだね。
「しんどいのは、自分の自律が足りないから?」って、思ってない? 任せることが力になるのは、信頼や支えがあるときなんだ。支えがないまま任されてしんどいのは、あなたの自律が足りないせいとは限らないよ。いますぐ答えを出さなくていいんだ。
ラベルより、いまの状態を見ればいいんだね。
「ここまでは自分で決めていい?」って聞いてみようよ
自分の職場がティールかどうかを決める必要はないよ。かわりに、次の3つを見てみてね。
- 決める前に、誰に助言を求めればいいかわかる?
- 困ったとき、頼れる仕組みや人はいる?
- 期待していることや判断の基準は、言葉になってる?
足りないところが見つかったら、次の1on1のついでに、上の人にひとつだけ聞いてみよう。「このプロジェクトで、ここまでは自分で決めていいですか?」「どうなっていたら成功だと思いますか?」って。
もしまた「あなたはどうしたいの?」と返ってきたら、「たとえばAとBで迷っています。どちらが近いですか?」って、選べる形にして聞き直してみてね。
期待を聞くのって、「自律できていない人」と思われそうで怖いよね。でも、群れの魚がとなりとの距離を確かめるのと同じで、期待を聞くことは自律をやめることじゃなくて、自律するための準備なんだ。
ティール組織で起きやすい悩み
ティールっぽい職場でつまずきやすいところを、深海から見た記事を並べておくね。
- ティール組織が失敗する「グリーンの罠」。みんなの納得を待つほど、決められなくなるんだ
- フラットな組織のデメリットは「見えない権力」? 提案が通らないもやもやの正体
- 自律型組織で感じる「このままでいいのかな」、あなたのせいじゃないかも
- ティール組織で上司に期待しなくなったのは、あなたのせいじゃないかも
- 「上司に相談できない」のはなぜ? 自律型組織ほど、心理的安全性が要るんだ
ここまで一緒に潜ってくれてありがとう! 次はこっちも覗いてみてね。
書籍 · 2018フレデリック・ラルー
組織のあり方を色で表した段階に分け、自主経営・全体性・存在目的を特徴とする「ティール(進化型)」の組織を、実際の組織の例から紹介した本。原書は2014年。
ラルー, F.(2018)『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(鈴木立哉 訳, 嘉村賢州 解説). 英治出版.
解説記事ラルーの『Reinventing Organizations』の公式 Wiki
自主経営は、助言を求めたうえで決める仕組みや、仲間どうしの約束にもとづく責任など、新しい構造とやり方の組み合わせで成り立つと説明している。対立の解き方や学び合いの例も別のページで紹介している。
論考 · 2016バーンスタインほか
ホラクラシーを、意思決定の権限を個人ではなく役割と流動的なチーム(サークル)に与える自主経営の一形態として説明し、「上司のいない職場」への賛否が大きく分かれていることを取り上げた。
論文 · 2013マーティンほか
職場で指示型と、任せて力を引き出すエンパワリング型のリーダーシップを比べた実験。どちらも仕事の習熟を高め、自分から工夫する行動を高めたのはエンパワリング型だった。
論文 · 2018リーほか
105のサンプルをまとめて分析し、任せて力を引き出すリーダーシップが成果や創造性にプラスに働くこと、そこにはリーダーへの信頼などが関わっていることを示した。
論文 · 2019ヴィジコフスカ
ティール組織についての論文を整理し、概念が広まってからも実証的な研究がまだ足りず、さらに調べる必要があると論じた文献レビュー。
書評 · 2025バタワデカルとメータ
ラルーの本の書評。12の組織を2年かけて調べた質的な研究であること、そのうち2つはリーダーが替わったあと従来のやり方に戻ったことを紹介し、事例の偏りなどの限界も指摘している。

