「自分って、これから何者になるんだろう」
「このままでいいのかな。自分って、これから何者になるんだろう」。帰りの電車でスマホを開いて、そんなふうに思ったこと、ない?
深海ではね、水が濁ると、上も下も前も後ろもわからなくなるんだ。どっちへ泳げばいいかわからないまま、その場でヒレだけ動かしている。キャリアに迷うのって、それに少し似ているのかもしれないね。
ボクの相棒にも、そんな時期があったんだって。相棒はもともとエンジニアとして開発をしていて、あるときからチームのマネジメントを任されるようになった。でも、うまくいかなかったんだ。理想を追い求めるあまり、メンバーが目の前で抱えている課題に合わせた言葉をかけられず、自分の言葉がメンバーのためになっていなかったと、相棒は振り返っているよ。
コミュニケーションでの失敗が重なって、相棒はマネジメントをやりたくなくなった。でも、そうなると、この先どこへ進めばいいのかがわからない。しかも相棒は部署を転々としてきたから、「自分はこれのプロ」と言えるものもない気がしていた。そのころの相棒は、ずっと「これから自分は何者になるんだろう」と不安だったんだって。
メンバーに言っていることは間違っていないはずなのに、なぜか届かない。そんな空回りの中で、この記事を開いた人もいるかもしれないね。

濁った水の中だと、自分がどっちを向いているのかもわからなくなるよね。
迷子なのは、軸がないからなのかな?
キャリアに迷うと、「自分の軸を決めよう」「まずは自己分析をしよう」って言葉をよく見かけるよね。資格を取ろうか、転職サイトに登録しようか、と考えた人もいるかもしれない。
でもね、ちょっと考えてみない? 軸が見つからないから困っているのに、「軸を決めよう」と言われても、どこから手をつければいいかわからないよね。迷子なのは、自分に軸がないから。そう考えると、答えを出せない自分を責めたくなっちゃう。
相棒の迷いも、よく見ると1つじゃなかったんだ。「マネジメントはやりたくない。じゃあ、この先どうすればいいんだろう」という迷いと、「部署を転々としてきて、何も積み上がっていない気がする」という迷い。2つが重なって、全部がわからないような気持ちになっていたんだね。
研究の世界でも、キャリアを決められない状態は1種類じゃない、と考えられているよ。キャリア研究者のガティたちは、キャリアを決めるときの困りごとを、いくつかの種類に分けて整理したんだ。この分け方は、13か国・約2万人のデータでもおおむね成り立つと確かめられているんだって。ボクたちがこのあと使う分け方とは別のものだけど、「迷いは分けて扱える」という考え方は同じだね。
迷いが1つのかたまりに見えるときほど、ほどいて1つずつ見ると扱いやすくなるのかもしれないね。

絡まった網は、引っぱるより、1本ずつほどくほうが早いんだよ。
キャリアの迷いを、3つの問いで見てみよう
じゃあ、どうほどけばいいんだろう。ボクと相棒は、キャリアの迷いを3つの問いに分けて眺めているよ。
| 問い | 見るための問い | 生まれやすい不安 |
|---|---|---|
| 何を積み上げてきた? | これまでの経験から、何が残っている? | 「専門性がない」「自分には何もない」 |
| どこへ向かいたい? | 何をしているときの自分でいたい? | 「やりたいことがわからない」「この道に進みたくない」 |
| どこで働く? | 今の場所で続ける? 場所を変える? | 「このままでいいのかな」「転職したほうがいいのかな」 |

何を積み上げてきた?
異動が多かったり、いろんな仕事を少しずつやってきたりすると、「自分には何もない」と感じやすいよね。でも、積み上がっているのは分野じゃなくて、物ごとの見方かもしれないよ。
どこへ向かいたい?
相棒の「マネジメントはやりたくない」は、ここにあたるね。上に進む道がマネジメントしか見えないとき、その道が合わない気がすると、向かう先ごとわからなくなること、ないかな?
どこで働く?
「このままでいいのかな」が消えないとき、いきなり「転職するか、しないか」を決めようとしがちだよね。でも、決める前に外を見てみるだけでも、今の場所の見え方が変わることもあるよ。
3つの問いは、きれいに分かれているわけじゃないよ。どの問いが絡まっているかがわかるだけでも、「全部わからない」から少し抜け出せると思うんだ。
迷子の地図って、まずは「どの問いで迷っているか」に印をつけるところからなんだね。
向かう先は、動きながら見えてきたんだって
じゃあ、相棒はどうやって迷子から抜けたんだろう。
相棒は、マネジメントでつまずいたあと、コーチングを学びはじめたんだ。コーチングのコミュニティ「THE COACH」で学ぶうちに、人との関係性や、コミュニケーションに向き合うようになった。そして、人や関係性に関わる仕事をしたいと思うようになったんだって。コーチングじゃなきゃいけない、ってことじゃないよ。つまずいたことから目をそらさずに、何か1つ動いてみた。ボクには、そこが大事だった気がするんだ。
そのあと相棒は、エンジニア向けの研修や文化づくり、全社の人事の仕事を経て、いまは全社をまたいで人材開発や組織開発をするチームを立ち上げて、リードしているよ。
おもしろいのは、相棒がいまもマネジメントをしていることなんだ。そして、マネジメントは愛を学ぶプロセスで、人生で避けては通れないものだと思うようになったんだって。やりたくないと思っていたものの見え方が、学ぶうちに変わったんだね。
でも、「やりたくない」と思った自分を、甘えだと決めつけなくていいよ。相棒も一度はそう思ったんだ。みんながマネジメントをやるべき、って話じゃない。やりたくないという気持ちも、向かう先を探す手がかりの1つなんだ。いますぐ答えを出さなくていいんだよ。
ボクがおもしろいなと思ったのは、向かう先は前もって一つに決めるより、動いて学ぶ中で見えてくるもの、という考え方があることなんだ。キャリア心理学者のクランボルツは、将来を先に決めきる必要はなく、探りながら動くことで、思いがけない出会いを生かせると提案したんだ。新しく管理職になった19人を1年追った研究では、つまずきや戸惑いは、自分の見方が変わっていく過程の一部として描かれているよ。
相棒もいまは、迷子から抜け出したと言っている。でも、はっきりした答えがあるわけじゃなくて、「なんとなく進む方向が見えてきたところ」なんだって。向かう先って、見つけてから動くものじゃなくて、動いているうちに少しずつ輪郭が出てくるものなのかもしれないね。

光の届かない深海でも、泳いでいるうちに、水の流れで方向がわかってくるんだよ。
いちばん気になる問いを、1つだけ選んでみよう
キャリア迷子のときって、全部の問いに一度に答えを出そうとして、固まっちゃうこと、ない? 上司に「マネジメントはやりたくない」なんて言いにくいし、「何がしたいの?」と聞かれても答えられない。だから、まずはほんの小さく始めてみよう。
- 3つの問いのうち、いまいちばん引っかかるものを1つだけ選ぶ
- その問いについて、思いつくことを1行だけ書いてみる。「何を積み上げてきた?」なら、この1年で人から頼まれたことを1つ。「どこへ向かいたい?」なら、最近、時間を忘れてやっていたことを1つ
- 余裕があれば、話しやすい同僚や社外の知り合いに、その1行だけ話してみる。「答えは出てないんだけど、最近『自分は何を積み上げてきたんだろう』って考えてて」くらいで十分だよ。上司にいきなり話さなくて大丈夫
答えを出すのは、まだ先でいいんだ。問いを1つに絞れたら、濁った水が少し澄んでくるかもしれないよ。
気になる問いから、潜ってみる?
- 自分には何もない気がする → 「専門性がない」と悩んだら
- これまでの経験を思い出せない → 職務経歴書の更新、転職しなくてもしておかない?
- やりたいことがわからない、この道に進みたくない → この記事の「向かう先は、動きながら見えてきたんだって」をもう一度読んでみてね
- 今の場所で続けるか迷っている → 転職するか迷ったら、まずは外を見てみない?
- 日々の仕事そのものがしんどい → 働く悩みを“ズレ”で見る地図
迷子になったのは、ちゃんと進もうとしてきたからだよ。おじさんも、お姉さんも、1つずつほどいていこうね。
- 🌊キャリア迷子は、軸がないからとは限らない
- 🧭迷いを「積み上げ」「向かう先」「場所」の3つの問いに分けてみる
- 🐚向かう先は、動いて学ぶうちに見えてくることもある
- 🫧いちばん気になる問いを、1つだけ選んで1行書く
ここまで一緒に潜ってくれてありがとう! 次はこっちも覗いてみてね。
まずは、ここから潜ってみる?
「自分には何もない」と感じたときに、これまでの経験を見直す記事だよ。
論文 · 1996ガティほか
キャリアを決めるときの困りごとを10の種類に分ける枠組みを作り、イスラエルと米国の若い人たちへの質問紙で、その分け方が理論の予想とおおむね合うことを確かめた。
論文 · 2023レヴィンほか
13か国・約2万人のデータで、キャリアを決めるときの困りごとの分け方(10の種類と、それをまとめた3つの束)が、言語をまたいでおおむね成り立つことを確かめた。
論考 · 2009クランボルツ
将来何になるかは前もって決めきる必要はなく、探りながら動くことで思いがけない出来事を生かせる、と考えられている。キャリアの相談は、一つの決定ではなく、満足できる人生へ向かう行動を助けるものだと論じた。
書籍 · 2019ヒル
新しく管理職になった19人の最初の1年を追い、管理職になることは技能を覚えるだけでなく、自分の見方や自分像が変わる大きな転換で、経験から学ぶ過程だと論じた(初版 1992 年)。
