押したいのに、押すのがちょっと怖い?
「経営が目指す方向に、もっと進めたい。でも、ここで踏み込んだら、現場の『やりたい』を壊しちゃうんじゃないかな」――組織開発をしていて、そんなふうに手が止まったこと、ないかな。
深海3000mにはね、自分で光る生き物がたくさんいるんだ。太陽の光が届かない場所だから、みんな自分の中から明かりをつくっている。誰かに照らしてもらった光じゃなくて、自分で灯した光なんだよ。
ボクの相棒は、会社で組織開発をしているんだ。部署をまたいだつながりをつくったり、社内のLT会を開いたり。組織の中に、そういう「自分で灯る光」を増やしていく仕事だね。
でも最近、相棒もちょうど、その場所で迷っているんだって。組織開発をする側としては、経営の目指す方向に向けてグッと進めたい。だけど、組織開発のメンバーが深く入りすぎると、現場が大事にしたいものを壊しちゃうんじゃないか。そんな話が、現場と組織開発の間でよく出るんだって。
まだ何も起きていないのに、起きるかもしれない逆効果が怖くて、手が止まりかける。踏み込むのが正解なのか、見守るのが正解なのか、相棒にもまだわからないみたい。
押したいのに、押すと崩れそう。ボクもそれ、わかるよ〜。
じゃあ、手を出さないのが正解なの?
でもね、ちょっと考えてみない? 相棒が現場で大事にしたいのは、「やりたい!」「こうしたい!」っていう自分から湧いてくる想いと、楽しんでやれていることなんだ。義務になって疲れてしまったら、組織を良くするっていう目的から見て本末転倒だもんね。
たとえばKPI、つまり成果を測る数字を決めて、それを追うことを現場に求めたらどうなるかな。「やりたい」が「やらなきゃ」に変わって、疲れが広がるかもしれない。
だからといって、数字を何も見ないでいると、その活動が経営の成果につながっているのか、誰にもわからなくなっちゃう。それはそれで、続けていく理由を説明できなくなるんだ。
深く関われば熱が冷めるかもしれない。関わらなければ成果が見えない。どっちも正しく見えるよね。でも、本当に「関わる」か「関わらない」かの二択なのかな?
ねえ、困っているのは「関わること」そのものなのかな?
熱は、どこから生まれるんだろう
深海の底から眺めていると、熱がどこから生まれるのか、ちょっと見えてくるんだ。
人間の研究ではね、人が自分から「やりたい」と思えるには、3つの感覚が大事だって言われているんだ。自分で選んでいる感覚、うまくやれている感覚、そして人とつながっている感覚。この3つが満たされると意欲は高まって、邪魔されると下がるんだって。
相棒に、現場の熱が高まるのはどんなときか聞いてみたんだ。答えは、新しい関係ができて楽しく話せたとき、それからLT会で自分の発表が認められたり、ほめられたりしたとき。そして組織開発の役目は、本人の「やりたい」を引き出して背中を押すことで、決めるのはあくまで本人なんだって。つながり、認められること、自分で決めること。3つの感覚とぴったり重なるんだね。
もうひとつ、たくさんの実験をまとめた研究があるんだ。成果に応じた見返りを用意すると、自分からやりたい気持ちは下がりやすい。でも、うまくやれていることを伝える言葉のほめ方は、気持ちを高めたんだって。数字を目標にすると、数字を合わせること自体が目的になっちゃう、とも言われているよ。
組織開発をする人にとっては、数字の目標より、「いいね」のひと言のほうが、現場の熱を守るのかもしれないね。
KPIを追わせると、真っ先にしぼむのは「自分で選んでいる感覚」なのかもね。
困っていたのは「測ること」じゃなかったんだね
ここまで潜ってみると、見えてきたことがあるんだ。
相棒が悩んでいた狭間の正体は、「測ること」じゃなかった。「測る」と「追わせる」がくっついていたことだったんだね。
数字を見ること自体は、経営の成果につなげるために必要なんだ。困るのは、その数字がそのまま現場の目標になって、「やりたい」を「やらなきゃ」に変えてしまうときなんだよ。
だとしたら、問いは「どこまで関わるか」じゃなくて、「何に関わるか」なのかもしれない。数字には組織開発の側がしっかり関わる。現場には、数字じゃなくて、火種と背中押しで関わる。
そう分けて考えると、深く関わることも、経営の方向に進めることも、そんなに怖くなくなるんじゃないかな。
それにね、迷って手が止まるのは、あなたが中途半端だからじゃない。現場の「やりたい」を大事にしているから、手が止まるんだよ。その迷いは、組織開発をする人の大事な感覚なんだね。
関わりすぎが悪いんじゃなくて、関わる相手を間違えないことが大事だったんだね。
数字はポケットに、火種は手のひらに
じゃあ、明日から何ができるかな。
ボクからの提案は、まずこれ。
いま現場に渡している数字を1つ書き出して、「見るための数字」か「追わせる目標」かに分けてみる
5分あればできるよ。もし「追わせる目標」になっているものがあったら、それを組織開発の側の手元に戻せないか考えてみる。数字を捨てるんじゃなくて、しまう場所を変えるんだ。これが「数字はポケットに」だよ。
そのうえで、こんなことも試してみてね。
- 火種は手のひらで守る:現場の「やりたい」を引き出して、背中を押す。決めるのは本人
- つながりと拍手の場をつくる:新しい関係で楽しく話せるきっかけや、LT会で発表をたたえる場を用意する
実はね、相棒もこの分け方を、これから試すところなんだって。うまくいくかは、まだわからない。でも、迷って手が止まっていたころより、どこに手を伸ばせばいいかは見えてきたみたい。
深海の生き物たちが自分で灯した光みたいに、現場の熱も、誰かに照らされるより、自分で灯るほうが長く続くのかもしれないね。
おじさんも、お姉さんも、もし同じ狭間で迷っていたら、まずはポケットの中の数字と、手のひらの火種を分けてみてね。
- 📊数字は手元で見て、現場の目標にしない
- 🔥現場の「やりたい」を引き出す
- 🤝決めるのは、あくまで本人
- 👏つながりと拍手の場をつくる
ここまで一緒に潜ってくれてありがとう! 次はこっちも覗いてみてね。
論文 · 2000ライアンとデシ
人のやる気を支える3つの欲求(自分で選んでいる感覚・うまくやれている感覚・人とつながっている感覚)を示し、それが満たされると自分からのやる気が高まる、とまとめた(自己決定理論)。
論文 · 1999デシほか
128の実験をまとめて分析し、成績などに応じたごほうびは自分からやりたい気持ちを下げやすい一方、ほめ言葉は、相手をコントロールする形でなければやる気を高めることを示した。
論文 · 1997マリリン・ストラザーン
イギリスの大学の評価制度を題材に、「測ったものが目標になると、よい測り方ではなくなる」と指摘した。

