会議で言ったこと、偉い人の一言でひっくり返ってない?
「ちゃんと考えて出した案なのに、結局は部長の一言で決まっちゃった」。そんな帰り道、あるよね。
ボクはホエール坊や。深海3000mに住む、小さな子鯨だ。ふだんはここから、人の働く世界をそっとのぞいている。人間の会社って、海の底から見上げると、ピラミッドの形をしていることが多いんだ。海面の光、つまりお客さんや社会のほうを向いているのは、てっぺんにいる数人だけ。下の段の人たちは、海面じゃなくて、ひとつ上の段の顔色を見て泳いでいる。
そんな形の中にいると、意見の正しさより、誰が言ったかで決まっていくように見えるんだよね。言えば言い出しっぺの仕事が増えるし、自分の意見にだけ当たりが強い気もする。だんだん、言う前に自分で飲み込むようになる。
そんなとき「球体型組織」って言葉を見かけて、ここに来てくれたのかな。でも同時に、「そういうのは、あの会社だからできるんでしょ」って思ってない?
ちゃんと考えて出したのに流されると、肩書きのない自分の意見に意味なんてあるのかな、って思えてくるよね。ボク、その気持ちから一緒に潜りたいんだ。
球体型組織って、どんな形なの?
球体型組織は、DeNA という会社が大事にしている組織の考え方なんだ。学問の言葉じゃないよ。
DeNA は、会社をピラミッドじゃなくて球として思い描いている。昨日入った新人も、長く働くベテランも、みんな同じように球の表面を担う。この考え方は「球の表面積」と呼ばれていて、いまも会社の大事にする価値観の1つに入っているんだ。
ポイントは、球には見る角度の数だけ真正面がある、ってこと。ピラミッドだと外を向いた顔はてっぺんにしかないけど、球ならどの人にも外を向いた面がある。だから自分が責任を持つ領域では、誰かの陰に隠れずに、真正面で会社を代表してね、という考え方なんだ。

この形を保つために、DeNA の創業者の南場智子さんは講演で、公式の価値観にもある「コトに向かう」に加えて、こんな言葉を紹介しているよ。
- 1
コトに向かう
人やメンツではなく、仕事そのものに向き合う
- 2
誰が言ったかではなく、何を言ったか
役職の重さを、正しさの根拠にしない
- 3
思考の独立性
会議でいちばん上の人の考えを推し量って、合わせにいかない
- 4
おもねり禁止
上の人の機嫌をとるための発言をしない
球の上には「てっぺん」がないんだね。じゃあ、誰が会社の顔なのかな?
球の形は、声とどうつながるのかな?
「言っても大丈夫」が声の通り道になる
ボクが見てきた研究では、ある外食チェーンの従業員3,000人あまりを調べたら、上司が開かれているほど、部下は改善の声を上げやすかったんだ。著者たちは、声を上げても危なくないと感じられることが、その橋渡しになっていると見ている。
「誰が言ったかではなく、何を言ったか」は、その「言っても大丈夫」を、雰囲気じゃなくて判断の基準として言葉にしたものだって、ボクは読んでいるんだ。言っても大丈夫な空気そのものの話は、「上司に相談できない」のはなぜ? にも書いたよ。
本番の打席で、人が育つ
DeNA には、球の表面に立つ人を育てる仕組みもある。1つは、成功する確率が五分五分くらいの仕事を任せる考え方。もう1つは「シェイクハンズ制度」で、受け入れ先の事業部長と本人が話して、握手した時点で異動が決まるんだって。
管理職60人の仕事経験を調べた研究では、難しい仕事ほど力は伸びるけど、難しすぎると効き目が落ちていった。そして、フィードバックをもらえる人は、その落ち込みが小さかったんだ。ちょうどいい難しさまで決めた研究ではないけど、打席には、打ったあとの声かけがセットなんだね。きみが打席に立つ側なら、打ったあとに「どうだった?」を聞ける人を1人見つけておくのも、ひとつの手かもしれないね。
ボクには、人間の相棒がいる。このブログを一緒に書いている、人と組織のことを仕事にしている人だ。相棒の会社は管理職をなくした自律型の組織で、球体型組織の話を読んで、自分の会社に近いと感じたそうだよ。異動も当事者どうしの合意で決まるから、シェイクハンズ制度とは、本人と受け入れ側の合意で決まるところが似ていると思ったんだって。
相棒がいちばん響いたのは、自分の受け持つ役割では、会社の代表として外とつながっていくってところ。相棒は、自分の役割については「自分が誰よりも詳しく、一番考えている」という気持ちを持てるようになったんだって。
肩書きがあってもなくても、役割はある。その役割では、きみが球の表面なんだね。
でもね、球になっても「誰が言ったか」は残ることがあるんだ
組織の研究では、フラットをうたう組織でも、名前ほど階層から自由ではないと論じられているんだ。公式の段が少なくても、見えない序列は働きうる、っていう見方だよ。見えない序列の話は、フラットな組織のデメリットは「見えない権力」? でも潜ったよ。
別の調査では、同じくらい発言していても、職場の人間関係の中心にいる人の声ほど、上司から高く評価されていた。これは上司のいるふつうの組織、つまり、きみの職場に近い場所での話なんだ。きみが感じていた「誰が言ったかで決まる」は、気のせいじゃないのかもしれない。そしてボクは、肩書きがなくなっても、それは別の形で残りうると思うんだ。
相棒も、管理職のいない会社で、球が崩れることはあると感じているんだって。それは、一人ひとりが「この役割では自分が一番詳しい」と思えるところまで育つ途中のことで、仕方のない面もある、って相棒は見ているんだ。
だからね、会議で案が流れたのは、きみの意見に意味がなかったからとは限らないんだ。誰が言ったかで重さが変わるのは、きみ一人のせいじゃなくて、形のほうの話でもあるから。
そのうえで、ボクが大事だと思うのはここ。球の表面を担うのは、肩書きじゃない。その役割を誰よりも考えていることなんだよ。だから役職があるかないかだけで、球かどうかは決まらない。会社の決め方まではすぐに変えられなくても、自分の役割の中で真正面に立つことはできる。
「あの会社だからできる」んじゃなくて、「その役割を誰より考えた人ができる」んだね。
まずは、自分の「一面」を1つ決めてみようよ
会社の形は、すぐには変えられない。上の人に「誰が言ったかじゃなくて」と言い返すのも、きっと難しいよね。だから、もっと小さく始めよう。
自分の担当の中から、「ここは自分が一番考えている」と言える範囲を1つだけ選んでみて。大きくなくていいんだ。毎週の数字の集計でも、問い合わせの傾向でもいい。そして次の会議で、その範囲のことだけ、事実と理由をそえて一言出してみる。たとえば「この集計、ここ数週見ていて気づいたことがあって」くらいでいいんだ。会議で言うのがまだしんどいなら、まずは気づいたことを1行メモに書いておくだけでもいい。役職じゃなくて、その一面を誰より考えたことが、きみの言葉の拠りどころになる。すぐに通らなくても、それはきみの考えが足りなかったからとは限らないよ。
相棒も、まだ社外で通用するレベルには届いていないって言っていた。それでも、その役割で、会社の代表としてもっと外とつながっていきたい気持ちが生まれているんだって。球の表面に立つって、完成した誰かになることじゃなくて、自分の一面を育てていくことなのかもしれないね。海面の光は、てっぺんにだけ届くものじゃない。きみが誰より考えている一面にも、ちゃんと差しこむはずだよ。
- 🐋球体型組織は、役職をなくす形じゃなく、一人ひとりが自分の役割で真正面に立つ考え方
- 🫧声が上がるかどうかには、言っても大丈夫と思えるかが関わる
- 🐚肩書きがなくても、誰が言ったかは別の形で残りうる
- 🌊球の表面を担うのは肩書きではなく、その役割を誰より考えていること
ここまで一緒に潜ってくれてありがとう! 次はこっちも覗いてみてね。
公式発表 · 2024DeNA
DeNA の大事にする価値観(DeNA Quality)の改定のお知らせ。「『こと』に向かう」「球の表面積」などが並んでいる。
講演レポート · 2021ビジョナル(南場智子さんの講演)
球体型組織と球の表面積、「誰が言ったかではなく何を言ったか」などの言葉、成功確率が五分五分の仕事を任せる考え方、シェイクハンズ制度が語られている。
Visional(2021)「南場智子氏、『多事業化を支える組織作り』を語る。『HRSS2021』基調講演レポート。」All Visional, 2021年6月18日.
講演録 · 2025ナイス(南場智子さんの講演)
達成できる確率が50%程度の仕事を任せること、握手した瞬間に異動が決まるシェイクハンズ制度、球の表面積が語られている。
論文 · 2007ディタートとバリス
外食チェーンの従業員3,149人と上司223人を調べ、上司が開かれているほど部下が改善の声を上げやすいことを示した。その間を「声を上げても危なくない」という感じ方がつなぐと、著者らは解釈している。
論文 · 2009デリューとウェルマン
管理職60人の225の仕事経験を調べ、難しい経験ほどリーダーシップの力は伸びるが、難しすぎると効き目が落ちること、フィードバックが得られるとその落ち込みが和らぐことを明らかにした。
論考 · 2011ディーフェンバッハとシリンス
いろいろな型の組織を整理し、フラット化をうたう組織でも階層は根強く残り、公式の階層と非公式の階層が影響し合っていると論じた。
論文 · 2015ハウエルほか
信用組合の従業員693人を調べ、同じだけ発言しても、上司は地位の高い属性の人や、職場の人間関係の中心にいる人の声をより高く評価することを示した。
この記事を書いたふたり

相棒の実体験に、研究でわかっていることを重ねて書いています。内容の誤りに気づいたら、お問い合わせから教えてください。
