なんでこんなこと、やってるんだろう?
「なんで自分、こんなことやってるんだろう」。仕事の手を止めたとき、ふとそう思ったこと、ない?
深海ではね、泳ぎたい方向と潮の流れが逆だと、どれだけヒレを動かしても前に進まないんだ。進まないうえに、体力だけがどんどん減っていく。働いていて感じる「なんで?」も、それに少し似ているのかもしれないね。
ボクの相棒にも、そんな時期があったんだって。相棒は、仕組みや組織のあり方を根本から変えたい、という思いを持っていた。でもそのころの担当は採用活動で、毎日、面談とメールの対応に追われていたんだ。深く考えたり、何かを変えるために動いたりできる状態じゃなかった、と相棒は振り返っているよ。任されているのは、日々の決まった仕事を正確にこなすことだと感じていたんだって。
そのころの相棒は、ずっと「なんでこんなことをやっているんだろう」と思っていたそうだよ。
がんばって泳いでいるのに、ちっとも進まない。そんな感じだったのかな?
それって、自分が弱いからなのかな?
こういう「なんで?」が浮かんだとき、多くの人は自分を責めちゃうんだ。「みんなやっているのに、つらいと思う自分は甘えているのかな」「自分に力が足りないから、うまくいかないのかな」って。
でもね、ちょっと考えてみない?
相棒は、採用の仕事をこなす力が足りなかったのかな。ボクはそうは思わないんだ。やりたいことと、置かれていた場所が、ずれていただけかもしれない。組織を変えることを考えたい人が、考える時間の取れない仕事で毎日を埋めていたら、「なんで?」が浮かぶのはむしろ自然だよね。
こういうズレは、相棒だけの話じゃないんだ。相棒は、現場で技術や専門性を磨き続けたい人が、キャリアアップとして管理職の役割を期待されて、現場から遠ざかってしまうケースを、これまでよく見てきたんだって。それも、その人の力の問題というより、磨きたいものと期待される役割がずれている話だよね。
「自分が弱いだけなのかな」って、ひとりで思ってない? ボクは、それだけで決めつけなくていいと思うんだ。いますぐ答えを出さなくても大丈夫。その前に、見てほしい場所があるんだよ。
弱いから苦しいんじゃなくて、ずれているから苦しい。そんなこと、ないかな?
悩みは、人と仕事の“ズレ”から生まれるんだって
相棒は、働く人の悩みは、本人の想いや能力と、仕事から求められる期待とのズレから生まれると考えているんだ。
研究の世界でも、人と仕事の「合い方」は長く調べられてきたよ。172の研究をまとめた分析では、本人の求めるものや力と、仕事が合っている人ほど、仕事への満足が高く、辞めたいという気持ちが低い傾向が繰り返し出ているんだって。つまり、「合っていない」って感じるのは、あなた一人の弱さというより、人と仕事の組み合わせの問題かもしれないんだ。
じゃあ、そのズレはどこから来るんだろう。相棒は、もとをたどると、環境や組織の構造から来ることが多いと考えている。誰にどんな役割を任せるか、何を期待するかを決めているのは、組織の仕組みだからね。組織の構造のほうから見た地図は、組織の問題を“構造”で見る地図にまとめているよ。
ただ、相棒はもう一つ大事なことを言っていたんだ。同じ構造の中にいても、働く人がそれをどう見るか、どう受け止めるかで、悩みの大きさは変わるって。実際に、同じストレスでも、それを「力を高めてくれるもの」と見るか「害になるもの」と見るかで、体の反応や行動が変わった、という実験もあるんだ。
でも、これは「悩むのは受け止め方が悪いから」という意味じゃないよ。自分の受け止め方を責めるより先に、まず何と何がずれているのかを見てほしいんだ。
潮の流れの向きがわかれば、「自分が遅いせいだ」って思わなくてすむね。
深海から見た、働く悩みの2つのズレ
じゃあ、どんなズレがあるんだろう。ボクと相棒は、いまのところ2つに分けて眺めているよ。
| ズレ | 見るための問い | 生まれやすい悩み |
|---|---|---|
| 想いと仕事のズレ | やりたいことと、任されていることは合っている? | 「なんでこれをやってるんだろう」「思っていたのと違う」 |
| 能力・量と期待のズレ | こなせる量や力を、求められることが超えていない? | 「しんどい」「休んでも休んだ気がしない」 |
想いと仕事のズレ
やりたいことや大事にしたいことと、任されている仕事が違うときに生まれるズレだよ。相棒の採用活動の話や、専門を磨きたい人が管理職を期待される話は、ここに入るね。入社したばかりの人が「思っていたのと違う」と感じるのも、このズレのひとつだと思うんだ。
→ 新卒で「思ってたのと違う」と感じたら。そのずれ、ひとりで抱えなくていいよ
能力・量と期待のズレ
こなせる量や、いまの力を、求められる期待が超えているときに生まれるズレだよ。このズレが続くと、「このままでいいのかな」という違和感にふたをして泳ぎ続けたり、終わらない仕事が休日の頭の中にまで入り込んだりすることもあるんだ。
→ 仕事がしんどいのは甘え? 違和感に気づくセンサーは、静かに壊れていくんだよ
→ 休日なのに休んだ気がしない? 頭から離れないのは、仕事の量のせいかも
2つのズレは、きれいに分かれているわけじゃないよ。やりたくない仕事ほど、量が多く感じることもあるからね。ほかのズレが見つかったら、またこの地図に描き足すね。
どっちのズレかがわかると、「自分のせい」以外の説明が見えてくるね。
その違和感は、「何かを変えてみて」のサインだよ
相棒は、その違和感は、変化を求めているサインだと考えているんだ。今のままがんばり続けるんじゃなくて、何かを変えるアクションが必要だって。
相棒自身も、そうしたんだ。採用活動をまとめていた上司に、自分から申し出て役割を調整して、採用活動から離れた。自分の力がいちばん活きるのはそこじゃない、と判断したんだって。そのあと相棒は、人材開発や組織開発という、じっくり考えることが必要な仕事に向き合えるようになった。いまは余白も生まれて、健全に働けているそうだよ。
自分で仕事のやり方や中身を少し調整している人ほど、仕事への熱意が高い傾向がある、という分析もあるんだ。大きく変えなくても、「ちょっと自分寄りにする」ことには意味があるのかもしれないね。
もちろん、相棒みたいに役割を変えられる場面ばかりじゃないよね。上司に言いにくいことも、すぐには動けないこともある。「変える」って、辞めることや異動みたいな大きな決断だけじゃないんだ。まずは、ほんの小さく始めてみよう。
- 今週「なんで?」と感じた仕事を、1つだけ書き出す
- それが「想いと仕事のズレ」か「能力・量と期待のズレ」か、見てみる
- 話しやすい同僚や先輩に、雑談のついでに1つだけ聞いてみる。たとえば「この作業、もう少し楽にできる方法ってないかな?」くらいで大丈夫。上司が忙しそうなら、いきなりじゃなくていいよ
気になるズレから、潜ってみる?
- やりたいことと違う気がする → 新卒で「思ってたのと違う」と感じたら
- しんどさにふたをしている気がする → 仕事がしんどいのは甘え?
- 休みの日も仕事が頭から離れない → 休日なのに休んだ気がしない?
- 職場の仕組みのほうから見てみたい → 組織の問題を“構造”で見る地図
泳ぎたい方向と潮の流れが違うって気づけたら、それはもう、自分を責めるのをやめるための最初のひと掻きだよ。おじさんも、お姉さんも、ゆっくりでいいからね。
- 🌊「なんで?」は、何かが合っていないよ、の合図かも
- 🧭自分を責める前に、何と何がずれているかを見る
- 🐚ボクの地図では、ズレは「やりたいこと」と「こなせる量」の2つ
- 🫧変えられるところを、1つだけ聞いてみる
ここまで一緒に潜ってくれてありがとう! 次はこっちも覗いてみてね。
論文 · 2005クリストフ=ブラウンほか
172の研究をまとめて分析し、本人と仕事の合い方(求めるもの・力と、仕事の要求が合っているか)が、仕事への満足の高さや辞めたい気持ちの低さと関係していることを示した。
論文 · 2013クラムほか
ストレスを「力を高めるもの」と見る考え方の人は、ストレスの場面での体の反応が中くらいに収まり、周りの意見を求める意欲も高かった。短い映像で、この見方を変えられることも示した。
論文 · 2017ルドルフほか
122のデータ(約3万5千人)をまとめて分析し、働く人が自分で仕事の中身ややり方を調整すること(ジョブ・クラフティング)が、仕事への熱意の高さと関係していることを示した。
