こんなはずじゃなかった
「こんなはずじゃなかったのに」――配属されてから、そう思ったこと、ないかな。
研修が終わって、やっと自分の仕事が始まると思っていたのに、やることがない。かと思えば、急に何も分からない仕事を任されて、誰に聞けばいいのかも分からない。同期はうまくやっているように見えるのに、自分だけ取り残されている気がする。そのうち「この会社を選んだ自分が、間違っていたのかな」なんて考えちゃう。
深海3000mでもね、似たようなことがあるんだ。若いクジラが初めて深い海に潜るとき、先に潜った仲間から「光る魚がたくさんいて、きれいな場所だよ」って聞いていたとするよね。でも実際に潜ってみたら、思っていたより暗くて、冷たくて、どっちに泳げばいいかも分からない。
聞いていた海と、潜ってみた海の色が違う。それだけで、なんだか自分がまちがった場所に来てしまった気がするんだよね。
思ってたのと違うと、自分の選び方まで疑いたくなっちゃうよね。
見る目がなかったのかな?
でもね、ちょっと考えてみない? 「思ってたのと違う」のは、本当にあなたの見る目がなかったからなのかな。
ボクの相棒も、新卒で入った会社で同じ気持ちになったことがあるんだって。
相棒が入った会社は、上司という役職がない自律型の組織だったんだ。入る前は「やりたいことを自分で進められる、自由な会社」って、ユートピアみたいなイメージを持っていたんだって。
ところが、研修が終わって配属されたら、ここまで放っておかれるのかってびっくりしたみたい。2か月くらいは特にやることがなくて、同僚とシステムの勉強をして過ごしたんだ。
それから数か月たったころ、今度はやったこともない開発案件のプロジェクトマネージャーを任された。何も分からないし、まわりにもなかなか頼れない。「やるしかない」って気持ちで、なんとか乗り切ったんだって。
乗り切れたのは、すごいことだよね。でもね、ボクが気になるのは、ひとりで乗り切るしかなかったことのほうなんだ。
それに、聞いていた話が、うそだったわけじゃないんだ。上司という役職がないのは、本当だった。それでも、入ってみたら思っていた姿とは違ったんだって。
ずれが起きたのは、選び方がまちがっていたからなのかな。それとも、もっと別の理由があるのかな。
ねえ、聞いていたことがうそじゃなくても、ずれることってあるんだね。
ずれは、誰にでも起こる“驚き”
深海の底から眺めていると、このずれは、人間の研究でもちゃんと扱われているみたい。
新しい組織に入った人は、たいてい「思っていたのと違う」という驚きを経験するんだって。人はその驚きを、「どういうことなんだろう」と自分なりに意味づけしようとする。そのとき大きな助けになるのが、前からその組織にいて、事情を知っている人なんだ。
「これくらいで落ち込むなんて、甘いのかな」って思ってない? そんなことないよ。入る前の期待が満たされたかどうかは、仕事への満足や「ここにいたい」という気持ちとつながっているんだって。ずれにモヤモヤするのは、自然なこと。軽く見なくていい気持ちなんだよ。
じゃあ、新しく入った人がなじんでいくには、何が必要なんだろう。人間の世界ではね、「自分はここで何をすればいいか」が分かることと、「ここにいていいんだ」と感じられることが大事だって言われているんだ。その2つには、上司や同僚からの支えが関わっているんだって。どっちも、ひとりでは作りにくいものだよね。
相棒のときは、その支えがうすかったんだね。上の人たちが「自律だから」と関わりを手放してしまうと、新しく入った人は、驚きをひとりで受け止めるしかなくなる。役職がなくなったときに、成長を支える役割まで消えてしまう話は、自律型組織の記事でも潜ってみたよ。
驚くのは、新しい海に入ったしるしなのかもしれないね。
ひとりで答えを出さなくていいんだね
ここまで潜ってみて、見えてきたことがあるんだ。
「思ってたのと違う」ときに、ひとりで答えを出そうとすると、どうしても「自分の見る目がなかった」に行き着きやすい。でも、同じ驚きを誰かと一緒に眺めてみると、「この部署はいま人が足りないんだな」「最初はみんなこうなんだ」と、違う見え方が出てくることもあるんだよね。
相棒の会社の新卒研修には、いま、配属の前に配属先でいちばんよく関わるメンター役の人と、関係をつくるワークショップがあるんだって。お互いの性格診断の結果を見せ合ったり、「自分をつくった3つの経験」を語り合ったりして、関係ができた状態で配属を迎えられるようにしているんだ。相棒は「当時これがあったら、変わったこともあっただろうな」って言ってたよ。
もし会社にこういう仕組みがなくても、だいじょうぶ。こういう関係は、自分から少しずつつくっていくこともできるんだ。
迎え入れてくれる上司との関係がよいと、新しく入った人は満足しやすく、組織にもなじみやすいこともわかっているんだって。驚きを一緒に考えてくれる人がいるかどうかで、同じずれでも、受け止め方が変わってくるんだね。
辞めるか、残るか。それを、いますぐ決めなくてもいいんだよ。その前に、このずれを誰かと一緒に眺めてみよう。
ずれそのものより、ひとりで抱えることのほうが、重たかったのかもしれないね。
社内でも、そばに置ける人を探そう
じゃあ、そういう関係は、どうやってつくっていけばいいかな。
相棒は、入ったばかりのころの自分に声をかけるなら、「社内でも、人に向き合ってくれる人を探して、そばに置こう」って伝えたいんだって。当時は放っておかれていたからこそ、そう思うみたい。
自分から情報を取りに行く新人ほど、仕事に慣れて、まわりにもなじみやすいんだって。待っているだけじゃなくて、自分から近づいてみることにも意味があるんだね。
だからボクからの提案は、まずこれ。
配属先でいちばん関わる人に、「最初のころ、どうでしたか?」と聞いてみる
ちょっとした雑談のついでに、5分だけでいいんだ。先輩にも「思ってたのと違う」があったと知るだけで、驚きを一緒に眺めるきっかけになるよ。
余裕があったら、こんなこともやってみてね。
- 「期待していたこと」と「実際」を書き出してみる:何がずれているのかが見えると、誰かに話しやすくなる
- 部署の外にも、話せる人を探す:同じ部署の中に見つからなくても、ちょっと離れたところに、向き合ってくれる人がいることもあるよ
聞いていた海と、潜ってみた海の色がちがっても、一緒に潜る仲間がいれば、暗い海もすこしずつ見えてくるよ。おともだちも、まずは1人、そばに置ける人を探してみてね。
- 🐋「思ってたのと違う」は、誰にでも起こる驚き
- 🫧ずれを、ひとりで抱えない
- 🐚まずは「最初のころ、どうでしたか?」と聞いてみる
- 🌊社内でも、向き合ってくれる人をそばに置く
ここまで一緒に潜ってくれてありがとう! 次はこっちも覗いてみてね。
部署の外にも、話せる人はいるかな?
同じ部署の中に相談できる人がいないときの、「斜めの関係」の育て方も、深海から見てみたよ。
論文 · 1980メリル・ルイス
新しく組織に入った人は「思っていたのと違う」という驚きを経験し、それを自分なりに意味づけしようとすること、そのとき事情を知る先輩などの助けが大きいことを示した。
論文 · 1992ワナウスほか
これまでの研究をまとめて分析し、入社前の期待が満たされたかどうかが、仕事への満足や、組織にとどまりたい気持ちと関係することを示した。
論文 · 2007バウアーほか
新しく入った人のなじみ方の研究をまとめて分析し、役割がはっきりしていること、自分はやれるという感覚、周りに受け入れられている感覚が、満足や定着につながることを示した。
論文 · 2003カマイヤー=ミューラーとワンバーグ
新しく入った人を時間を追って調べ、上司や同僚からの支えが、役割のわかりやすさやチームへのなじみに関わることを示した。
論文 · 2012スラスとトンプソン
上司が新人を迎え入れる関わりが、上司との関係の質を通して、新人の満足や組織へのなじみにつながることを示した。
論文 · 1993エリザベス・モリソン
新人を時間を追って調べ、自分から情報を取りにいく新人ほど、仕事に慣れ、役割がはっきりし、周りにもなじみやすいことを示した。

