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「これって、逃げなのかな?」
「異動したいって思うのは、ただの逃げなのかな。自分が弱いだけ?」。上司に厳しく言われた日の帰り道、スマホを開いていない?
深海3000mでもね、強い潮の流れが来ると、小さな魚は岩陰に逃げこむんだ。それは生きるための知恵だよ。でも、流れが来るたびに別の岩陰へ移ってばかりだと、流れのことはわからないままなんだよね。
ボクの相棒は、会社で人事の仕事をしているんだ。あるとき、別の部署の後輩から相談を受けたんだって。「今の部署から異動したいんです」って。
話を聞くと、後輩は燃え尽きたようになって、仕事が期限までに終わらなかったことがあったんだ。それで上司から厳しく言われたんだって。後輩は、自分の話を聞いてもらえなかったように感じて、悲しかった。そこから異動したいと思うようになったんだ。そして自分のキャリアも考えはじめて、人事の相棒のところに来たんだ。
ねえ、異動したいって思うこと自体は、悪いことなのかな?
「逃げ癖」って、性格のことなのかな?
「逃げ癖」って言葉、ちょっと怖いよね。調べてみたら、「辛かったら逃げていい」と「逃げ癖がつくとダメになる」が、あちこちでぶつかっていたんだ。休んだら逃げ癖がつくと思って、しんどいのに毎日会社に行っている人もいたよ。「治し方」の記事を読んでも、「自分は逃げ癖がある人なんだ」ってラベルが1枚増えるだけなんだよね。
ちょっと考えてみない? 相棒が気になったのは、異動したいという気持ちそのものじゃなかったんだ。場所を変えること=逃げ、じゃないんだよ。
気になったのは、「なぜそうなったのか」が空白のままだったこと。なぜ燃え尽きたのか。なぜ期限までに終わらなかったのか。なぜ上司にそう言われたのか。そこに向き合わないままだと、新しい部署でも同じことが起きるかもしれない。相棒は「そこに向き合うことから逃げているのかも」って感じたんだって。あとで話すけど、相棒自身にも同じ覚えがあるんだ。
「やっぱり自分は弱いのかな」「前からすぐ逃げたくなるし」って思ってない? でもね、異動したいって思うのは、弱いからじゃないよ。しんどかったし、話を聞いてもらえなくて悲しかった。そう感じたのは、そのままの気持ちなんだ。逃げかどうかは、今夜決めなくていいんだよ。
逃げ癖って、性格じゃなくて、「なぜ」を置いていくクセのことかもしれないね。
自分の逃げは、自分からは見えにくいんだ
なんで本人は気づけないのかな?
人はね、うまくいかなかったときは状況や他人のせいと考えやすくて、しかも自分の見方は偏っていないと思いやすいんだって。だから、自分のことがいちばん見えにくいのは、おじさんやお姉さんだけじゃないんだよ。
フィードバックそのものにも、落とし穴があるんだ。研究をまとめた分析では、平均すると成績は上がったけど、およそ3分の1では逆に下がっていた。注意が「仕事」から「自分自身」に向かうほど、効き目が落ちると考えられているよ。
厳しく言われたあとって、悲しさや悔しさで胸がいっぱいになるよね。それは当たり前のことだよ。ただ、そのままだと「なぜそうなったか」までは、なかなか手が届かないのかもしれないね。
それに、場所を変えるだけで楽になるとも限らないんだ。フィンランドの会社員565人を3年追いかけた研究では、転職や異動をした人としなかった人で、燃え尽きや仕事ぶりの変わり方に差が見られなかったんだって。研究は1つだけど、場所だけ変えても、持っていくものがあるのかもしれないね。

岩陰を変えても、潮の流れはついてくるのかもしれないね。
逃げと、離れたほうがいいときは、ちがうんだね
離れたほうがいいときも、ちゃんとあるってこと。
燃え尽きは、個人の弱さじゃなくて、職場の状況との関係でとらえるのが研究の見方なんだって。職場でのいじめは、心や体の不調や燃え尽きとつながっていることもわかっているよ。理不尽な扱いを受けているときや、心や体が危ないときは、離れる判断が自然な場面もあるんだ。燃え尽きのサインは違和感のセンサーの記事にあるよ。

相棒は、後輩の場合はそこまでではないと感じたんだって。何が課題で、上司との関係がどうなっているのか、だいたい見えていた。ハラスメントのような理不尽さがある、という感じではなかったんだ。
だから相棒は、異動を止めなかった。異動するならこういう関わり方ができそうだよ、と道を示したうえで、「異動したあとに同じことを起こさないために、なんで燃え尽きたんだろう? なんで期限までに終わらなかったんだろう?」と問いを渡したんだって。
すると後輩は、異動ではなく、まずは今の部署でやりたいことに取り組みながら考えてみる、ってなったんだ。「話すことでスッキリした」とも言っていたんだって。気持ちを言葉にすると感情が落ち着きやすいことは、脳の研究でも示されているよ。
残ったのが正解、ってわけじゃないんだ。相棒は異動の道も一緒に並べていたからね。大事だったのは、どっちを選ぶかより、「なぜ」を手に持てたことなんだと、ボクは思うよ。
実は相棒も、マネジメントに失敗したとき、メンバーとの関係に向き合わずに「マネジメントをやりたくない」って思っていたんだ。コーチングを学び始めて、自分が人との関わりに恐れを抱いていたと気づき、その恐れを1つずつ乗り越えるのが大事だと学んだんだって。
相棒が逃げていたのは、マネジメントからじゃなくて、人との関わりへの恐れからだったんだね。
まずは、誰かに話してみようよ
逃げかどうかを、ひとりで裁かなくていいんだ。自分の逃げは自分からは見えにくいから、誰かに話して、問いをもらうのが、ひとつの手だよ。
今夜、この問いの答えをスマホにメモしてみてね。まず1つ目だけでもいいよ。
- 何が、いちばんしんどかった?
- それは、場所を変えたら消えるもの?
- 同じことがまた起きたら、次はどうする?

それを持って、誰かに話してみよう。「決めたわけじゃないんだけど、ちょっと聞いてほしくて」くらいで大丈夫。相棒も、後輩の異動を止めなかったよね。
相手は上司じゃなくていいんだ。別の部署の先輩でも、人事の人でもいい(斜めの関係の記事も見てね)。身近にいなければ、キャリアの相談を仕事にしている人に話す方法もあるよ。
岩陰に逃げこむのは、悪いことじゃないよ。ひと息ついたら、流れのことを誰かと話してみよう。答えは、そのあとでいいんだ。
- 🐋場所を変えること自体は、逃げじゃない
- 🫧逃げのサインは、「なぜ」が空白のまま場所だけ変えたくなること
- 🐚理不尽さがあるとき、心や体が危ないときは、離れていい
- 🌊自分の逃げは見えにくいから、誰かに話して問いをもらおう
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働く悩みがどこから来るのか、地図で見てみる?
期限に追われて燃え尽きそうになるのは、働く悩みのうち「能力・量と期待のズレ」にあたるんだ。悩みを3つのズレで見た地図もあるよ。
論文 · 2004メズーリスほか
266の研究をまとめ、成功は自分のおかげ、失敗は状況のせいと考える傾向が、年代や文化をこえてほぼすべての集まりに見られることを示した。アジアでは欧米より小さかった。
論文 · 2002プロニンほか
人は、自分は他人より思いこみに左右されにくいと考え、偏りの説明を受けたあとも自分の判断は客観的だと答えることを、3つの研究で示した。
論文 · 1996クルーガーとデニシ
フィードバックの研究をまとめ、平均では成績が上がるが約3分の1では下がることを示した。注意が課題から自分自身に向くほど効果が落ちる、という考え方を示した。
論文 · 2026ヒルヴァほか
フィンランドの会社員565人を3年追いかけ、転職や異動が、燃え尽きと仕事ぶりの状態の変化と関係しなかったことを示した。
論文 · 2001マスラックほか
25年分の研究を整理し、燃え尽きを慢性的な仕事のストレスへの反応として、職場という文脈のなかでとらえる見方を示した。
論文 · 2012ニールセンとアイナルセン
職場のいじめの研究をまとめ、いじめが心身の不調や燃え尽き、辞めたい気持ちとつながっていること、のちの心の不調にも影響することを示した。
論文 · 2007リーバーマンほか
感情を動かす画像に言葉で名前をつけると、感情に関わる脳の部位(扁桃体)の活動が下がることを示した。
論文 · 2018トーレとリーバーマン
気持ちを言葉にすることは、本人が意図しなくても、気持ちの受けとめ方を変えるのに似た働きをもつと考えられている、と整理した。
この記事を書いたふたり

相棒の実体験に、研究でわかっていることを重ねて書いています。内容の誤りに気づいたら、お問い合わせから教えてください。
