「このままでいいのかな」が浮かんでも、次のタスクが来る
「このままでいいのかな」――ふとそう思っても、次の瞬間にはもう、目の前の仕事に戻っていること、ないかな。
朝からメッセージが積み上がっていて、会議のあいだにも新しい依頼が来る。責任のある仕事だから、手を抜くわけにもいかない。なんとか捌いて、また次を捌く。「なんのためにやってるんだろう」なんて考えている暇は、正直どこにもないんだよね。
深海3000mに住むボクたちクジラはね、どんなに深く潜っても、必ず海面に上がって息をするんだ。疲れたから上がるんじゃなくて、生きるために上がる。でも、もし息継ぎを「あとでいいや」って後回しにして潜り続けたら、どうなると思う?
苦しさって、続くと少しずつ慣れちゃうんだよ。苦しいのが当たり前になると、自分がいま苦しいのかどうかも、だんだん分からなくなっていく。
「この程度でしんどいなんて、甘えなのかな」って思っている人ほど、きっと、いちばん長く潜り続けているんだよね。
息継ぎって、がまんするものじゃなかったはずなんだけどな。
その問い、無視して泳ぎ続けてない?
でもね、ちょっと考えてみない? 「このままでいいのかな」って浮かんでくる問いは、本当に、あとで考えればいいものなのかな。
ボクの相棒も、この問いを後回しにし続けたことがあるんだって。
7年ほど前のこと。相棒のところには、たくさんの仕事が集まってきていたんだ。責任もあったから、なんとか捌かなきゃいけない。気づいたら、仕事を捌くことにしか頭を使えなくなっていて、だんだん疲れていったんだって。
「なんのために仕事をしているんだろう」「このままでいいのかな」。そんな疑問が浮かんでも、相棒はそれを無視して、仕事を続けた。
しんどさはどんどん増えていって、いつのまにか「もう続けるのは無理だ」というところまで来て、体調を崩してしまったんだ。
仕事中に急に涙が出てきたり、朝起きて仕事に行きたくないと思ったり。その体と心の反応に気づいて、相棒はやっと「自分は無理をしていたんだ」と分かったんだって。
相棒みたいに体調を崩すところまで行かなくても、しんどいって言っていいんだよ。
ボクがこの話でいちばん気になったのは、相棒が最初に後回しにしたのが、疲れでも頭痛でもなくて、「なんのために?」という問いだったことなんだ。
問いは、声が小さい。締め切りみたいに急かしてこないから、いくらでも後回しにできちゃう。そして、ちゃんとやろうとする人ほど、目の前の仕事を優先して、自分の問いを一番うしろに並べてしまうんだよね。
いちばん静かな声が、いちばん大事なことを言っていたのかもしれないね。
違和感に気づくセンサーは、静かに壊れていく
なんで、涙が出るところまで気づけなかったんだろう。深海の底から、人間の研究をのぞいてみたよ。
お医者さんや看護師さんのように、責任の重い仕事をしている人たちの研究をたくさんまとめた論文ではね、燃え尽き(バーンアウト)の早いサインは、慢性になるまで見過ごされやすいって言われているんだ。そのサインは、たとえばこんなもの。
- 疲れが抜けない、集中しにくい、眠りが浅い、体のどこかが不調
- ちょっとしたことでイライラする、人に対して冷めてしまう
- 見かけは仕事が回っているのに、仕事を抱え込みすぎている
最後のひとつ、ドキッとしないかな。「ちゃんと回っている」ことが、サインを隠してしまうこともあるんだね。
それから、仕事のことを考えるのにも、いくつか種類があるんだって。働く人たちを調べた研究では、仕事から心が離れている時間がある人ほど、生活に満足していて、心が満たされている傾向があった。反対に、仕事の嫌なことを考え続けてしまうことは、燃え尽きと特に結びついていたんだ。
頭の中が「捌くこと」でいっぱいのとき、仕事から心が離れる時間も、自分の状態を眺める時間も、どこにも残っていないんだよね。違和感に気づくはずのセンサーは、ある日いきなり壊れるんじゃない。使われないまま、静かに鈍っていくんだ。だから、体と心が先に悲鳴をあげるまで、気づけなかったんだね。
壊れていく音がしないから、こわいんだよね。
しんどいのは、甘えでも弱さでもなかったんだね
ここまで潜ってみて、ボクには見えてきたことがあるんだ。
「しんどいのは、自分の気持ちが弱いからだ」「みんなこなしているのに、甘えているだけだ」。そう思っていたなら、少しだけ見方を変えてみてほしい。
相棒は、いまこう考えているんだって。心と体に影響が出るほど仕事が集まっているのは、組織の仕組みがゆがんでいるしるしだって。だから、ひとりのがんばりで埋めるんじゃなくて、周りに相談して、役割や優先順位を見直してもらうべきなんだ、って。
一人のところに仕事が集まり続けるのは、その人が弱いからじゃない。仕事の割り振り方や、「あの人ならやってくれる」という流れのほうに、原因があることも多いんだよね。個人の問題に見えることを、組織の仕組みから眺め直す見方は、組織の問題を“構造”で見る地図でも潜ってみたよ。
だからね、しんどさは、あなたが足りないことのしるしじゃない。がんばりが足りないから苦しいんじゃなくて、ひとりで抱えるには多すぎる量を、抱えているから苦しいのかもしれないんだ。
重たい荷物を持って「重い」って言うのは、甘えじゃないよね。
まずは、自分に1つだけ問いを向けてみようよ
じゃあ、センサーが鈍りきる前に、何ができるかな。
ボクからの提案は、まずこれ。
週に1回、5分だけ「最近の自分は、どんな状態だった?」と書き出してみる
金曜日の帰り道や、日曜の夜のちょっとした時間でいいんだ。眠れているか、朝の気分はどうか、イライラしていないか。さっきのサインの一覧を横に置いて、当てはまるものに丸をつけるだけでもいいよ。答えを出す必要はないんだ。自分に問いを向けること自体が、後回しにしてきた小さな声を、もう一度聞くことになるからね。
そして、もし「けっこう当てはまるな」と思ったら、ひとりで抱え込まないでほしいんだ。相棒は、関係者に「これ以上続けるのは無理なので、休みを取ります」と伝えて、1か月休む前提で仕事を調整してもらったんだって。それからは、休むための調整を少しずつするようになったんだって。
いきなり休むと伝えるのは、ハードルが高いよね。だったら最初のひと言は、「いま抱えている仕事の、優先順位を一緒に見てもらえませんか」でもいいんだ。上の人が忙しそうでも、それは仕事を回すための相談だから、遠慮しなくていいんだよ。
休みの日も頭が仕事から離れないなら、「休日なのに休んだ気がしない?」も読んでみてね。
涙が出る、朝がつらいといった反応が続いているなら、お医者さんや会社の相談窓口のような、専門の人に話を聞いてもらうのも、ひとつの手だよ。
クジラが海面に上がるのは、負けたからじゃない。もう一度、深く潜るためなんだ。おじさんも、お姉さんも、今週どこかで5分だけ、自分のために息継ぎしてみてね。
- 🐋しんどいのは、甘えでも弱さでもない
- 🫧「なんのために?」という小さな問いを、後回しにしない
- 🐚週に1回5分、「最近の自分はどんな状態?」と書き出す
- 🌊気づいたら、ひとりで抱えずに周りに伝える
ここまで一緒に潜ってくれてありがとう! 次はこっちも覗いてみてね。
相談できる人が、そばにいるかな?
「周りに伝えよう」と思っても、話せる人が思い浮かばないこともあるよね。部署の外に相談できる相手をつくる方法を、深海から見てみたよ。
論文 · 2025ステファノス・カラコリアス
医療職の燃え尽きについて2010〜2025年の45本の研究をまとめ、早いサインは慢性になるまで見過ごされやすいこと、そのサインが自分の内側・人との関わり・仕事ぶりの3つに表れることを整理した。
論文 · 2019ヴァイゲルトほか
社員474人への調査で、仕事の外で仕事のことを考える5つのかたちを比べ、仕事から心が離れていることは生活の満足と、嫌なことを考え続けることは燃え尽きと、特に結びつくことを示した。

