「自律」って言うけど、当事者になれているのは一部の人だけじゃない?
「うちのチーム、本気で考えてるのは、結局いつものあの人たちだけかも……」
深海3000mでもね、群れの行き先を気にしているのは先頭の数匹だけで、後ろはついていくだけ、ってことがよくあるんだ。海の底に沈んだものを拾いに行くのも、だいたいいつも同じお魚。気づいちゃうから、放っておけないんだよね。
人間の職場もそっくりだよ。数字や行き先を気にするのはリーダーだけ。誰も手を挙げない仕事は、たいてい断らない人のところに流れていく。
ボクの相棒の職場でも、誰も引き受けない仕事は評価につながりにくくて、引き受ける人の善意に支えられているところがあるんだって。
これは誰かが悪いんじゃなくて、どの職場でも起きやすい構造なんだと思うよ。善意が評価に映らない話は頑張っても評価されない頼まれごとの記事で潜ったよ。今日は、一人ひとりが自分で仕事を選んで引き受けることを、まるごと仕組みにした会社の話だよ。
ねえ、当事者って、気持ちだけでなれるものなのかな?
自律って、結局だれかの気持ちで回ってるだけなのかな?
「自律」や「主体性」を大事にする会社は増えたよね。自分で気づいて動く。すてきなことだよ。
でもね、ちょっと考えてみない? 指示がない組織で「気づいた人が動く」とき、動いているのは気づいてしまう人や断れない人であることが多いんだ。自律は、知らないうちにその人たちの気持ちで支えられていることがある。
「うちのチーム、あの人たちに甘えてるだけかも」って思った? それは、みんなの気持ちが足りないからじゃないよ。気持ちしか受け皿がない仕組みになっているだけかもしれないんだ。
ボクの相棒は、自律型の組織が大きくなるときのことを考えているんだって。事情を知らない人が増えると、文化だけで支えるのはむずかしくなるかもしれない、と感じているみたい。ティール組織やホラクラシーのつまずきにも、この影がちらちら見えるよ。
そんななか、別の道を選んだ会社がある。半導体の製造装置をつくるディスコだよ。ディスコは自律を文化や気持ちだけに任せず、制度で支えようとしている。それが「Will会計」だよ。相棒はこれを見て、「ティール組織を、まさに制度で運用しているケースだ」と感じたんだって。
Will会計は、指示じゃなく合意で仕事が動くしくみなんだ
Will会計は、社内の仕事や支援を「Will(意志)」という社内通貨でやりとりする、ディスコ独自の、社内のお金の流れを見えるようにする仕組み(管理会計)だよ。
どうして生まれたの?
始まりは1993年。どこで価値が生まれ、どこで使われているかを見えるようにするため、部門ごとの収支を出したんだ。でも部門単位だと、業績を気にするのは部門長ばかりだった。そこで2011年、会計の単位を一人ひとりまで下ろしたんだって。
根っこにあるのは「人は、自分の意志で選んだ仕事に最も主体的に取り組む」という考え方だと、ディスコは説明しているよ。
仕事が動く流れ
- 依頼する: 頼む側が、目的・納期・完了条件・支払うWillをはっきりさせて出す
- 担い手を探す: 直接頼むか、社内オークションで手を挙げてもらう
- 合意で決まる: 中身と値段に双方が納得したら成立。一方的な指示は、取引として記録されない
- 集まらなければ、仕事を見直す: 値段・分け方・期限・完了条件を変える。それでもだめなら、その仕事が本当に要るのかを考え直す
- 記録が残る: 頼んだ側の支出、引き受けた側の収入として残る

誰も手を挙げない仕事はどうなるの?
人気のない仕事は、値段を上げないと引き受けてもらえない。公式ページには、手間の大きい設備点検レポートの値段を上げ、書式を簡単にし、3人で分けられる形に組み替えたら担い手が見つかった、という説明用の例があるよ。
誰も引き受けないとき、人の問題じゃなくて、仕事の設計の問題として扱うんだね。
「誰もやらない」は、仕事からのSOSだったのかもね。
値段をつけると、何かが壊れないの?
ボクの相棒は、誰も引き受けない仕事に値段がつけば、善意で引き受けてきた人が報われると感じているんだって。壊れることは、あまり想像できないみたい。だからこそ、研究ものぞいてみたよ。
- 測れる仕事にだけ報酬が向くと、測りにくい仕事が後回しになる、という理論があるんだ
- 値段は、やる気を削ぐこともあれば、強めることもある。どちらに転ぶかは条件しだいだと整理されている
- 自分で仕事を選ぶやり方が、上司の割り振りよりうまくいくのは、限られた条件のときだと考えられている
Willのことを調べた実験じゃないけど、少しだけ払うと、払わないよりかえって成績が下がった実験もあるんだよ。値段をつければ全部うまくいく、ってわけじゃないんだね。
ディスコも、この穴は意識しているよ。教育や改善のような測りにくい仕事は、会社全体のお財布(全社勘定)や社内クラウドファンディング(IB)で支える。Willは基本給とは直接結びつかず、現金にも換えられない。賞与の一部には使われるけれど、人事評価とは別のもの。公式ページではそう説明しているんだ。

ギスギスしそうって思うよね。ディスコは、たくさん稼ぐ働き方だけを勧めているわけではなく、早く帰れる仕事を選ぶ子育て中の社員もいると紹介しているよ。
ハーバード・ビジネス・スクールの教材では、見学に来た約10社のうち、導入した会社はなかったと紹介されているんだって。教材が問いかけているのは「なぜ他社は導入しないのか」。まるごと持ち帰るより、考え方を少し借りるくらいがちょうどいいのかもしれないね。
- 🐋仕事は、指示ではなく合意で成立する
- 🫧担い手がいなければ、人ではなく仕事の設計を見直す
- 🐚値段がつきにくい仕事は、会社全体で支える
- 🌊赤字は人の良し悪しではなく、見直しの合図
まずは、誰もやらない仕事を1つ、依頼の形に書き直してみようよ
会社の制度は、ボクたちひとりでは変えられないよね。でも、「合意で仕事を引き受ける」考え方は、明日からでも借りられるんだ。
チームで誰も手を挙げない仕事を、ひとつ思い浮かべてみて。まずは、次の定例で、その仕事の「完了条件」だけを一行で書いて出してみよう。「この作業、どこまでやれば終わりか決めておきたくて」のひと言で十分だよ。
慣れてきたら、ディスコの依頼の形に近づけてみてね。
- 目的: なぜこの仕事が要るのか
- 納期: いつまでに必要か
- 完了条件: どこまでやれば終わりか
- 何で報いるか: 評価に口を出せなくても、みんなの前で「助かった」と伝えるだけでも、記録の代わりになるよ
それでも手が挙がらなかったら、「人が足りない」で終わらせずに、分け方や書式、期限を見直してみてね。
おじさんやお姉さんのチームの海の底にも、拾われるのを待っている仕事があるかもしれないね。自分で選んで引き受けた人が、ちゃんと報われる海になるといいね。
ここまで一緒に潜ってくれてありがとう! 次はこっちも覗いてみてね。
公式ページ · 2026ディスコ
Will会計の考え方・生まれた経緯・仕事が動く流れ・関連制度・説明用の例をまとめたページ。この記事の仕組みと例はここから紹介した。
論文 · 1991ホルムストロームとミルグロム
人が複数の仕事に力を配り、そのうち一部しか測れないとき、測れる仕事に報酬を結びつけると測れない仕事から力が離れる、と考える経済学のモデル。
論文 · 2001フライとイェーゲン
お金や罰による働きかけが、内側からのやる気を弱めることも強めることもある、という研究をまとめたもの。
論文 · 2011ニーズィーほか
お金の報酬は、仕事の受け止め方を変えて逆効果になることがあると論じ、効く条件と効かない条件を整理したもの。
論文 · 2000ニーズィーとルスティキーニ
実験室と寄付集めの実験で、少額の報酬を受けた人たちが、報酬なしの人たちより成績が低くなったことを示した。
論文 · 2022ラヴィーンドランほか
仕事を自分で選ぶやり方が、管理者による割り振りよりうまくいくのは、仕事を分けられる・担い手の空きが読みにくいなど条件が重なるときだと、シミュレーションで示した。
事例教材 · 2018バーンスタインほか
ディスコの個人Willを扱った経営大学院の教材。見学に来た約10社のうち導入した会社はなく、「なぜ他社は導入しないのか」を問う。
公式ページ · ディスコ
個人Will会計・社内オークション・DISCA・Will賞与・IBを紹介したページ。人気のない仕事は値段を上げないと落札されないこと、稼ぐ働き方だけを勧めてはいないことを説明している。
この記事を書いたふたり

相棒の実体験に、研究でわかっていることを重ねて書いています。内容の誤りに気づいたら、お問い合わせから教えてください。
