ちゃんと頼んだのに、なんで返事が来ないの?
「ちゃんと伝えたはずなのに、なんで動いてくれないんだろう」
そんなふうに、Slack の画面を何度も見返したこと、ないかな。リアクションのスタンプも、つかないまま。締め切りだけが、じりじり近づいてくる。
深海でね、ボクたちクジラは音を出して、はね返ってくる音で先のようすを知るんだ。でも、ときどき音が返ってこないことがある。そんなとき、海が空っぽだとは限らないんだよ。途中で、音を吸いこむ何かがあることもあるんだ。
ボクの相棒も、この「返ってこない」を経験したんだって。
相棒は人事の仕事をしていてね。新卒で入ったみんなに、3か月ごとにフォローアップのアンケートを流そう、ってチームで合意していたんだ。そこで、アンケートの作成と案内を、一緒に人事をしている後輩に Slack でさらっとお願いしたんだって。期限もちゃんと伝えてね。
合意もしているし、問題なくやってくれるだろう。相棒はそう思っていたんだ。ところが数日たっても反応がない。気づけば、アンケートを流したい日の2日前になっていたんだって。
合意もして、期限も伝えたのに。音は、どこに消えちゃったのかな?
反応がないのは、やる気がないから?
こういうとき、頭にうかぶ言葉があるよね。「この人、怠けてるのかな」「仕事ができないのかな」。
相棒も、「なんでやらないんだろう、なんで反応がないんだろう」って思ったんだって。見落としているだけかもしれない、とも思いながらね。
人はね、うまくいかないことがあると、つい相手の「人」のせいにしちゃいやすいんだ。このクセのことは、組織の問題を“構造”で見る地図でも話したよ。
「イライラしちゃう自分って、心が狭いのかな」って思ってない? そんなことないよ。頼んだことが止まったら、誰だってそう感じるんだ。いますぐ、相手をどう思うかを決めなくていいんだよ。
でもね、ちょっと考えてみない? 上下の指示で動かない、自律型の組織ではね、「頼んだんだから、やるのが当たり前」は、そのままでは通らないんだ。上司が部下に命令するような力が、もともと弱いからね。
じゃあ、権限で押せないとき、人は何で動いて、何で止まるんだろう。
反応がないのを「その人の中身」の問題にしてしまうと、この問いは見えなくなっちゃう。怠けているのか、どこかで何かが引っかかっているのか。外から見ると、どちらも同じ「無反応」に見えるんだよ。
ねえ、止まっているのは、人なのかな。それとも、流れのほうなのかな?
話してみたら、止まっていた理由が見えてきた
相棒はね、Slack で待ち続けるのをやめて、30分のミーティングを入れて話を聞いてみたんだって。
話してみたら、後輩は別のことを気にしていたんだ。新卒も対象にした、全社で進んでいる別の社員アンケート(エンゲージメントサーベイ)の企画があって、「そっちで代わりになるんじゃないか」って。
このことは、チームのミーティングでも話に出ていたんだって。でも、その後どうなったのかが後輩には伝わっていなくて、気になったままだったんだ。
後輩にとっては、「本当にやっていいのかな」が宙に浮いたままだったのかもしれないね。話は出ていたのに、結果だけが届いていなかった。誰か一人がさぼったというより、話の流れが途中で途切れていたんだと思うよ。
それにね、気になることを口に出すのって、案外むずかしいんだ。組織の中では、「言わないほうが無難だ」という空気が知らないうちにできて、気がかりがあっても口に出されにくくなる、って考えられているんだ。人は「これは言わないほうがいいかな」を無意識のルールで決めていて、実際には言っても大丈夫な場面でも黙ってしまうことがある、という調査もあるんだって。
職場で人に動いてもらうやり方を調べた研究(管理職が中心)では、圧力をかけるより、理由を話したり相談したりするほうが効きやすかったんだって。
相棒はね、権限で動かせないからこそ、一人ひとりの気持ちや事情をつかみにいくしかない、って言うんだ。だから、反応がないときは、責める前に3つの窓からのぞいてみようよ。
- 動機:相手は、何を大事にしているかな?
- まわりの仕事:ほかに、どんな仕事や企画が進んでいるかな?
- 関係者:まだ話がついていない人は、誰かな?
今回の相棒の話は、2つめと3つめの窓から見えたんだね。
音を吸いこんでいたのは、まだ言葉になっていなかった「気がかり」だったのかもしれないね。
反応がないのは、どこかで何かが止まっているサインかも
相棒は、後輩の違和感は正しかったと思っているんだって。全体の流れに沿って動くなら、必要なやりとりだった、ってね。
無反応は、どこかで話の流れが止まっているサインかもしれないんだ。怠けのしるしだと決めつけると、そのサインを読みそこねちゃうんだ。
でもね、相手の違和感に合わせて、ただ引っこめばいいわけでもないんだよ。相棒は、アンケートの本来の目的を手放さないようにしたいと思ったんだって。新卒のみんなの状況をつかんで、必要ならフォローすること。相棒は、ここだけは手放したくないんだって。
後輩の違和感と、相棒の目的と、全社で進んでいる企画。全部が噛み合う場所を探すために、全社サーベイを検討している担当の人も入れて、これからの方針を話し合うことにしたんだって。答えはまだ出ていないけど、止まっていた話が、もう一度テーブルに乗ったんだ。
権限で「やって」と押し通せない組織では、こういう噛み合う場所を探しにいくことが、仕事の一部になるんだね。遠回りに見えるよね。でも、相手の気持ちや、抱えている仕事や、まわりの人のことを知って話す。それが、みんなで同じ方向に泳ぎ出す近道なのかもしれないよ。
返ってこない音にも、ちゃんと海の形が映っていたんだね。
返事を待つより、30分話してみようよ
相棒は、ふりかえってこう思ったんだって。「最初から30分、予定を押さえて話しておけば、もっと早く動けたな」って。
だから、ボクからは、こんな一歩を差し出してみるね。
反応がないまま止まっている依頼があったら、責める前に30分だけ話す時間を押さえてみる
最初のひと言は、「例の件、何か気になってることがあったら聞きたくて。30分だけいい?」くらいで大丈夫。詰めるためじゃなくて、聞くための30分だよ。相手が先輩や同僚でも、「聞きたい」なら頼みやすいよね。話してみれば、止まっている理由は案外すぐ見えてくるんだ。
次に頼むときは、目的と「気になる点ある?」をひと言そえておくと、止まりにくくなるかもしれないよ。
それとね、相棒にはもうひとつ本音があるんだって。反応がないままなのは、やっぱり良くない。頼まれた側にも、「違和感があるので一度話したいです」って Slack でひと言返してほしい、って。そのひと言があれば、30分のミーティングも要らなかったかもしれないからね。
音が返ってこないとき、海が空っぽなわけじゃない。だったら、こっちからもう一度、やさしく音を出しにいけばいいんだ。そうやって音を出しあえたら、海はずっと泳ぎやすくなるよ。
- 🐋反応がないのは、怠けとは限らない
- 🫧無反応は、話の流れが止まっているサインかもしれない
- 🐚動機・まわりの仕事・関係者の3つの窓からのぞく
- 🌊待つより、30分話してみる。違和感は、ひと言でいいから声にする
ここまで一緒に潜ってくれてありがとう! 次はこっちも覗いてみてね。
反対に、自分の提案が止まるときは?
肩書きの無い組織で、提案がどこで止まるのか。同じ海を、提案する側から見てみたよ。
論考 · 2000モリソンとミリケン
組織の中に「言わないほうが賢い」という共有の思いこみが生まれ、社員が問題や気がかりを口にしなくなる「組織の沈黙」の仕組みを理論としてまとめ、それが組織の変化をさまたげると論じた。
論文 · 2011ディタートとエドモンドソン
聞き取りと調査から、人は「言っていいか」を無意識のルールで判断していて、実際には言っても問題ない場面でも黙ってしまうことがあると示した。
論文 · 1992ユクルとトレイシー
職場で部下・同僚・上司に働きかけるやり方を調べた研究。理由を示して説得する・相談するといったやり方は効きやすく、圧力をかけるやり方は効きにくいことを示した。
