「このままでいいのかな」が、ずっと消えないんだ
「転職したほうがいいのかな。でも、辞めるほどの理由もない気がする」。評価面談が終わった夜、そんな気持ちでスマホを開いていない?
深海3000mはね、ずっと暗いんだ。暗さに慣れてしまうと、自分がどれくらい深いところにいるのか、だんだんわからなくなる。上の明るさを知らないと、今いる場所の暗さも測れないんだよね。
働く場所も、少し似ているかもしれないね。同じ会社に長くいると、評価も給料も働きやすさも、その会社のものさしでしか見られなくなる。だから「このままでいいのかな」と思っても、何と比べて「このまま」なのかがわからない。答えが出ないまま、同じ問いがぐるぐる回るんだ。
がんばっているのに、評価にも給料にもあまり映らない。でも、人間関係が悪いわけでもない。そんな「辞めるほどじゃない引っかかり」、ない?
迷っているのは、きみだけじゃないよ。国の調査では、今の仕事を変えたい、ほかの仕事もしてみたいと思っている働く人が、1,000万人を超えていたんだ。思っているけど、まだ動いていない人もたくさんいるはずだよ。
迷ってるのは、優柔不断だからじゃないかもしれないよ?
外を見るのって、会社に悪いことなのかな?
「転職する気もないのに、エージェントに相談したら迷惑じゃないかな」。そんなふうにためらう声を、ボクはよく聞くんだ。外を見るのは、もう辞めると決めた人がすること。そう思っていると、見ること自体に後ろめたさがついてくるよね。
ボクの相棒もね、転職を考え始めたことがあったんだ。きっかけは3つ。給料を上げたかったこと。暮らしのことを考える時期になって、ライフステージが変わったこと。そして一番大きかったのが、自分の仕事と評価の仕組みが合っていないことだったんだって。
相棒がリードしていたチームの仕事は、評価にうまく映らなかったんだ。相棒は、この会社で給料を上げていく期待も持てなくなったと感じたんだって。
でも、相棒はそこで「辞める」と決めたわけじゃなかった。相棒が思ったのは、自分は世の中のものさしで見るとどれくらいの市場価値なのか、今の職場は世の中の会社と比べてどんな環境なのか、それを知ってから、転職するかを考えればいいってことだったんだ。
外を見る=転職を決めること、じゃないんだね。
「転職する気もないのに外を見るなんて、会社に悪いかな」って思ってない? でもね、外を見るのは裏切りでも、辞める準備でもないとボクは思うんだ。今いる場所がどんな場所なのかを知るための、ものさしを手に入れること。だから、見たからってすぐ何かを決めなくていいんだよ。
決める前に見る、って順番もあるんだね
社内のものさしだけじゃ、自分の位置は測れないんだ
どうして、頭の中だけで考えても決められないんだろう?
ボクはね、比べる基準が社内にしかないからだと思うんだ。人は、自分の給料や待遇を、その数字そのものより「周りと比べてどのあたりか」で受け止めるみたいなんだよ。同じ職場の人の給料が見られることを知らせた実験では、自分が真ん中より下だとわかった人だけ、仕事への満足が下がって、別の仕事を探し始めたんだって。社内の給料でさえ、人は思い込みで見ていることが多いみたいなんだ。
どちらも社内の給料の話だけど、ボクは外の求人にも同じことが言えるんじゃないかと思っているんだ。比べる材料が増えると、今の場所の見え方が変わる。逆に言えば、材料がないまま「辞めるべきか」を決めようとするから、迷いが終わらないのかもしれないね。「転職すべきでない人」みたいなチェックリストを読んでも決められなかったのは、きみが優柔不断だからじゃなくて、比べる材料がまだ手元にないからかもしれないよ。

じゃあ、外を見たら辞めたくなっちゃうのかな? そうとも限らないみたいなんだ。アメリカの管理職を1年追った研究では、辞めるために外を探した人は実際に辞めやすかったけれど、今の会社との話し合いの材料にするために探した人では、辞めることとの結びつきが見られなかったんだって。外を見ることと、辞めることは、まっすぐにはつながっていないみたいなんだ。ちょっとほっとしない?
何のために見るかで、その先も変わるんだね
外を見たら、今の職場の良さも見えてきたんだって
相棒が一歩目を踏み出すとき、こう考えたんだって。「自分の人生に、誰も責任は取ってくれない。後悔しないために、情報収集だけでも小さく始めよう」。
それで相棒は、転職エージェントと面談したりして、外の情報を集めてみたんだ。わかったことは2つあったんだって。ひとつは、どんな役割や仕事に、どれくらいの給料がつくのか。もうひとつは、プロのエージェントから見た自分の力が、どれくらいに見えるのか。
それから、働きやすさや人間関係も、ほかの会社と比べられたんだ。そうしたら相棒は、案外、今の職場の働く環境や人間関係は良くて、働きやすいと感じたんだって。外を見たら、今の場所の良さも見えてきたんだね。

それでも、給料は上げたい。だから相棒は、すぐ辞めるのでも、ずっと残ると決めるのでもなく、給料のことは外のものさしも見ながら考えていく、という方針にしたんだ。比べる材料があったから、自分で方針を決められたんだね。
ただね、外を見たら気持ちが揺れることもあると思うんだ。さっきの実験みたいに、自分の位置が低いとわかって、不満が強くなることもある。それに、就職活動中の学生で、一番いい仕事を探し続けようとする傾向が強い人は、初任給は高くても、得た仕事への満足は低かったんだって。だから、外を見るのは「一番を探す」ためじゃなくて、今の場所をはかるものさしを取るため、くらいがちょうどいいのかもしれないね。もし外を見て、今の場所のほうが足りないとわかっても、それも大事なものさしの1本だよ。決めるのは、そのあとでいいんだ。
ものさしを持ったら、今いる深さもわかるんだね
「決める」のはあとにして、ものさしを1本取りに行こう
転職するか迷っているなら、まだ決めなくていいんだ。決めるのはあとにして、外を少しだけ見てみない?
まずは、自分と同じような役割の求人を3件だけ見て、給料の幅と、求められていることをメモしてみて。15分でいいよ。
それができたら、こんなこともできるよ。
- 🐋メモの横に、今の職場の「良いところ」と「足りないところ」を1つずつ書く
- 🫧エージェントに会うなら、最初に「まだ決めていない。今の自分の位置を知りたい」と伝える
- 🐚比べて揺れた気持ちも、メモに残しておく
- 🌊半年に1回、同じものさしで見直してみる
「まだ決めていない」って伝えるのは、失礼なことじゃないと思うんだ。決める前に知りたい、っていうのは、ちゃんとした理由だからね。
深海の暗さも、上の明るさを知れば、ちゃんと測れる。測れたら、ここに留まるのか、別の海へ泳いでいくのか、自分で選べるんだ。きみも、ものさしを1本だけ取りに行ってみない?
ここまで一緒に潜ってくれてありがとう! 次はこっちも覗いてみてね。
公的統計 · 2026総務省統計局
2025年の平均で、過去1年に転職した人は330万人。今の仕事を辞めて別の仕事に変わりたい人と、今の仕事のほかに別の仕事もしたい人を合わせた「転職等希望者」は1,023万人だった。
論文 · 2012カードほか
同僚の給料が見られるサイトがあることを、大学の職員の一部にだけ知らせた実験。同じ部署・職種の真ん中より下だとわかった人は、給料と仕事への満足が下がり、別の仕事を探す人が増えた。真ん中より上の人には変化がなかった。
論文 · 2022カレンとペレス=トゥルーリア
大企業の従業員を対象にした実験。従業員は上司の給料を大きく読み違えていて、正しい情報を知ると働きぶりが変わった。上司の給料が高いと知ると努力が増え、同僚の給料が高いと知ると努力が減った。
論文 · 2004ボズウェルほか
米国の管理職を1年追った調査。辞めるために外を探した人は1年後に辞めやすかったが、交渉の材料を得るために探した人では、辞めることとの結びつきが見られなかった。
論文 · 2011スワイダーほか
働きながら仕事を探す人を調べた研究。探すことと辞めることの結びつきは、職場に根づいていない人や満足が低い人、ほかの選択肢が多い人ほど強かった。
論文 · 2006アイエンガーほか
就職活動中の大学生を調べた研究。一番いい仕事を探し続ける傾向の強い人は、初任給は高かったが、得た仕事への満足は低く、探している間のつらい気持ちも多かった。
