1on1もサーベイもあるのに、会議はしんとしてない?
「1on1は毎週やってる。サーベイの数字も悪くない。なのに、どうして会議で誰も反対しないんだろう」。トラブルの報告がまた遅れて届いた日の夜、そんなふうに考えていない?
深海から見上げるとね、海面がとても穏やかな日があるんだ。でも深いところでは、流れが止まって水がよどんでいることがある。波が立たないのは、動いていないからなのかもしれないよ。
たとえばね、こんな会社を思い浮かべてみて。仕組みをそろえて、サーベイの数字は高いのに、仕事のできる人が辞めていく。理由を聞いても「特にありません」としか言わない。その人の回答を見返すと、どれも高い点が並んでいる。
仕組みをそろえれば、本音は出てくる。そう信じてやってきたのに、手応えがない。そんなとき、「自分の器が足りないのかな」「心理的安全性なんて、きれいごとなのかな」って思っちゃうよね。
組織づくりの仕事をしているボクの相棒も、ちょうどいま、「心理的安全性が高いって、どんな状態なんだろう」「そこへ近づくには何が要るんだろう」って学んでいるところなんだ。今日は相棒と一緒に、研究やほかの会社の事例を手がかりに潜ってみるよ。
海が静かなのは、平和だからかな? それとも、誰も動けないからかな?
心理的安全性って、“何を言っても許される”ことなのかな?
まずは言葉の意味から。Google は、よいチームの条件を調べた研究で、こう説明しているよ。
心理的安全性とは、対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方、つまり、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかを意味します。
— Google re:Work「ガイド: 効果的なチームとは何か」を知る
180のチームを調べて見つかった5つの条件のうち、いちばん大事だったのがこれなんだって。この考え方のもとになったのは、エイミー・エドモンドソンという研究者の研究だよ。
でもね、それは「何を言っても許される」ことでも、「仲よしで誰も責任を取らない」ことでもないんだ。エドモンドソンは、心理的安全性の高さと、求められる水準の高さを組み合わせて、職場を4つに分ける考え方を示している、と紹介されているよ。
| 求められる水準が低い | 求められる水準が高い | |
|---|---|---|
| 心理的安全性が高い | 快適ゾーン(居心地はいいけど、学びは起きにくい) | 学習ゾーン |
| 心理的安全性が低い | 無関心ゾーン | 不安ゾーン |
「ぬるま湯」と呼ばれるのは、この快適ゾーンに近い状態なんじゃないかな。だから心理的安全性は、きれいごとでも、ぬるま湯でもないんだ。高い目標に向かうために、言いにくいことを言える状態のことなんだね。
やさしいだけの海と、一緒に潜れる海は、ちょっと違うんだね。
仕組みを足しても本音が出ないのは、なぜだろう
気をつけたいことが、3つ見えてきたよ。
1. 沈黙は、「言ったら危ない」という当たり前の予想から生まれる
ある研究では、多くの人が「こういうときに口を出すと危ない」という暗黙のルールを持っていて、それが沈黙をよく説明していたんだって。沈黙は性格より、組織の構造から生まれる、と論じた研究もあるよ。
話す場を増やしても、「言ったらどうなるか」の予想が変わらないかぎり、人は黙ったままになりやすいんだ。
2. 悪い知らせが少ない=安全、とは限らない
病院の病棟チームの研究では、よく連携できているチームのほうが、むしろミスの報告が多かったんだって。言いやすいから表に出てくる、と考えられているよ。
逆に、悪い知らせが上がらないチームに問題がないとは限らない。ノキアの研究では、中間の管理職が上の人を恐れて悪い知らせを伝えにくくなり、経営陣は自社の技術力を実際より高く見積もっていたんだ。
サーベイの点が高くても、トラブルの報告がいつも遅れて届くなら、それは“言いにくさ”のサインかもしれないね。数人のチームでも起きうることなんだ。

3. 全体性(ホールネス)は、強いると重荷になることもある
心理的安全性は、仕事に「まるごとの自分」を持ち込めるかにもつながっているよ。自分を仕事に注げるかは、意味・安全・余力の3つの感覚で決まる、と考えた研究もあるんだ。ラルーも、仕事用の仮面をはずして働けることを全体性(ホールネス)と呼んだよ。
でもね、本当の自分を出すことは、誰にとっても同じようにプラスとは限らないって整理した研究もある。学生の実験では、立場が上の人が弱みを打ち明けると、影響力が下がることもあったんだって。
だからボクは、「弱さを見せて」「ありのままでいて」と求めること自体が、新しいプレッシャーになることもあると思うんだ。全体性は、安心の先に自然に広がっていくものなのかもしれないね。
「本音を言って」って言われるほど、言えなくなることってあるよね?
安心は、言ったあとに“何が返ってくるか”で育つんだね
心理的安全性は、仕組みの数だけでは決まらない。言ったあとに、何が返ってくるかの積み重ねで育つんだ。
エドモンドソンは、リーダーの仕事を3つに整理している、と紹介されているよ。
- 土台をつくる: わからないことや失敗はつきものだ、と最初に共有する
- 参加を求める: 自分も間違えると認め、「どう思う?」と聞く
- 生産的に応える: 悪い知らせや反対意見に、まず感謝で応える
ボクは、弱さを“さらけ出す”ことと、「ボクも間違えることがあるから、気づいたら教えて」と伝えることは、少し違う気がするんだ。
医療チームの研究でも、リーダーが意見を求める姿勢を見せているチームほど心理的安全性が高く、とくに立場の低い人ほど、そのつながりが強かったんだって。
多くの研究をまとめた分析でも、リーダーのあり方とのつながりが見られているよ。ただ、どちらが原因なのかまでは、まだはっきりしていないんだ。
本音が出ないのは、器(生まれつきの性格)の問題というより、応え方という、あとから変えられることの問題なんじゃないかな。だから、自分を責めなくていいんだよ。最初の一言で原因を問いただすと、次は言いにくくなるかもしれない。でも、そこは今日から変えられるんだ。
入れものをいくら並べても、そこに注ぐ水が冷たかったら、誰も入ってこないよね。
次に悪い知らせが届いたら、まず「教えてくれてありがとう」から
仕組みを足す前に、悪い知らせへの最初の一言を、先に決めておいてほしいんだ。
たとえば「教えてくれてありがとう」。原因を聞くのは、そのあとでいい。最初の一言で、次にその人が早く言えるかが変わっていくはずだよ。
つい「なんで早く言わなかったの?」と言っても大丈夫。「言ってくれて助かったよ」と言い直せばいい。その言い直しも、「ここでは言っても大丈夫」という予想を少しずつ書き換えていくはずだよ。
相談する側の話は「上司に相談できない」のはなぜ?に、1on1の中身は1on1が意味ないと感じたらにまとめたよ。

次に悪い知らせが届いたら、それは海面に小さな波が立った合図かもしれないよ。止まっていた流れが、また動き出したしるしなんだ。
- 🐋心理的安全性は「何を言っても許される」ことじゃない
- 🫧目指すのは、安心して言い合えて、目標も高いチーム
- 🐚点が高くても、悪い知らせが上がらないなら要注意
- 🌊安心は、言ったあとに返ってくる一言で育つ
ここまで一緒に潜ってくれてありがとう! 次はこっちも覗いてみてね。
職場の関係のモヤモヤを、もっと深く潜ってみる?
本音が出にくい理由を、組織の4つの構造から整理した地図があるよ。
解説記事 · Google
Google が社内の180チームを調べ、効果的なチームの条件を5つ(心理的安全性・相互信頼・構造と明確さ・仕事の意味・インパクト)にまとめた。いちばん大事なのは心理的安全性だとしている。査読を経た論文ではない。
論文 · 1999エドモンドソン
チームの心理的安全性を「対人関係のリスクを取っても安全だという、メンバーが共有する思い」と定義し、学習行動やチームの成果とのつながりを調べた。
書籍 · 2018エドモンドソン
心理的安全性と求められる水準の組み合わせで職場を4つに分け、リーダーの仕事を「土台をつくる・参加を求める・生産的に応える」の3つに整理した。
論文 · 2011デタートとエドモンドソン
4つの研究で、「いつ発言すると危ないか」についての当たり前の思い込みが職場に広くあり、人が黙ることをよく説明していることを示した。
論考 · 2000モリソンとミリケン
組織の構造や管理者の思い込みが、「声を上げても無駄か危ない」という共有された認識を生み、組織全体が黙る状態につながると考えられている。
論文 · 1996エドモンドソン
2つの病院の病棟チームを調べ、よく連携できているチームほどミスの報告が多いことを見つけた。開かれた雰囲気で報告されやすいためと解釈している。
論文 · 2016ヴオリとフイ
2005〜2010年のノキアを調べ、上位の管理職は外の競合を、中間の管理職は社内の上司を恐れたことで、悪い知らせが伝わりにくくなり、経営陣が自社の技術力を過大評価したことを描いた。
論文 · 1990カーン
2つの職場での聞き取りから、人が自分自身を仕事に注げるかは、意味・安全・余力の3つの感覚で決まると考えた。
書籍 · 2014(原著)フレデリック・ラルー
実在の12の組織を観察し、仕事用の仮面をはずしてまるごとの自分で働くことを「全体性(ホールネス)」と呼んだ。査読を経た研究ではない。
ラルー, F.(2018)『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(鈴木立哉 訳, 嘉村賢州 解説). 英治出版.
論文(レビュー) · 2019チャほか
職場で「本当の自分」でいることについての研究をまとめ、それが誰にとっても同じように良いとは限らず、立場や力関係で変わると整理した。
論文 · 2018ギブソンほか
学生を対象にした3つの実験で、立場が上の人が弱みを打ち明けると、同じ立場の人の場合と違って、評価や影響力が下がることを示した。
論文 · 2006ネムハードとエドモンドソン
新生児集中治療室の医療チームを調べ、リーダーが意見を求める姿勢を見せるほど心理的安全性が高く、とくに立場の低い人で効果が大きいことを示した。
論文(メタ分析) · 2017フレイジャーほか
136のサンプル(2万2000人超)をまとめ、心理的安全性がリーダーのあり方やチームの設計、学びや成果と関係していることを示した。多くは同じ時点の調査で、因果までは言えない。
この記事を書いたふたり

相棒の実体験に、研究でわかっていることを重ねて書いています。内容の誤りに気づいたら、お問い合わせから教えてください。
