「みんなの意見を聞いてから」で、止まってない?
「たぶん、答えはもう見えてる。でも、もう一回みんなに聞いてからにしよう」――そうやって、また話し合いを次に回したこと、ないかな。
上司という肩書きのない、フラットな組織。誰の意見も大事にしよう、みんなが納得してから進もう。そう思うほど、意見は増えて、決めるタイミングは遠のいていく。帰り道に「ティール組織って、本当はうまくいかないのかな」なんて考えちゃう。
深海3000mにはね、群れで泳ぐ魚たちがいるんだ。でも、群れの全員が同じ向きを向くまで待っていたら、そのあいだに潮に流されちゃう。ボクが見ているとね、群れが動き出すとき、最初にヒレを動かすのは、たいてい誰か1匹なんだ。
決められない自分を、「自律する力が足りないのかな」って責めていない? もしかすると、足りないのは力じゃなくて、決め方の地図なのかもしれないよ。
「でも、上の人が決めて、みんなが従う組織には戻りたくない」――その気持ちも、大事にしていいんだよ。ボクが話したいのは、その2つのあいだにある、もう1つの決め方なんだ。
みんなを大事にしたいから止まっちゃう。それ、すごく真面目な止まり方だと思うな。
ティール組織って、みんなで決める組織なの?
でもね、ちょっと考えてみない?
ティール組織は、フレデリック・ラルーが、組織のあり方を色で5つの段階に分けて紹介した考え方なんだ。よく「階層もルールもないフラットな組織」「全員の合意で決める組織」と説明されるよね。
ところが、ラルーたちの公式の解説には、こう書いてあるんだって。自主経営(みんなで自分たちを運営するやり方)は全員の同意で決まる――それは誤解だ、と。
ティールの決め方の中心は「助言プロセス」。何かを決めたい人は、影響を受ける人や詳しい人に、まず意見を聞く。でも、決めるのは、その件を担う人なんだ。助言はあくまで助言で、全員の同意は待たないし、誰かが拒否することもできない。トップダウンとも、全員一致を待つやり方とも違う、3つめの決め方として説明されているよ。

ネットで「ティール組織 失敗」を調べると、「セルフマネジメントできる人が足りない」という原因がよく出てくる。でも、もし「全員の納得がそろうまで決めない」を自律だと思っていたら、どんなに真面目な人でも止まっちゃうよね。
聞くことと、決めること。ボク、ずっと同じものだと思ってたよ。
全員の納得を待つと、“グリーンの罠”にはまるんだ
ラルーの段階でティールの1つ手前にある「グリーン」は、価値観や関係性、みんなの合意を大事にする組織なんだ。トム・ニクソンは『すべては1人から始まる』で、このグリーンの感覚のまま階層だけをなくした組織がはまる落とし穴を、グリーンの罠と呼んでいるよ。意見を聞きすぎて決められない。決まっても、つぎはぎや妥協が多くなる。
ゲーム開発のスタートアップを調べた研究では、フラットな構造は発想を広げうる一方で、実行が散らかりやすかった。ティールそのものの研究じゃないけど、「形をなくせば回る」とは限らないんだね。
自主経営も、研究では「上下をなくすこと」じゃなく、決める権限をきちんとした仕組みで分けることだと考えられている。方向を決める役目も、消えるんじゃなく別の形で担われる、と考えられているよ。苦しいのは、あなたの力不足より、仕組みがまだ無いからかもしれないね。
相棒の会社は、「上司」という呼び方をしない組織なんだ。チームでこれから力を入れる領域を決めるとき、相棒には、答えがもう直観で見えていたんだって。でも、1人では進められないから、全員の納得感をつくることが必要だと考えていた。メンバーの意見を聞こうとするうちに決めきれなくなって、相棒は、上司に当たる人との相談の場を設けたんだ。そのあと、決めることができて、チームの中での合意もできた。結果として、ほっとしているんだって。
相棒は、自分も含めて、多様な意見を大事にするほど動き出しにくくなることや、上司に当たる人に後押しをもらって進むことが、職場で起きていると感じているんだって。誰かのせいじゃなくて、決め方の形の話なんだ。
「なんだ、結局は上の人がいないと決まらないんじゃん。ティールって嘘なの?」って思ったかな。相棒の場合、止まっていたのは、人じゃなくて「全員の納得がそろうまで決めない」という決め方のほうだったんだ。だから、相談できる人がいなくても、決め方は変えられるんだよ。形をなくすと決める力が見えにくくなる話は、フラットな組織のデメリットは「見えない権力」?でも潜ったよ。
誰も悪くないのに、止まっちゃう。だから“罠”なのかもしれないね。
役職がなくても、「最初の一歩を踏んだ1人」のまわりに形ができるんだね
じゃあ、本来のティールには、どんな構造があるんだろう。
ヒントは、ニクソンたちが広めている「ソース原理」という実践者の考え方なんだ。何かを始めるとき、リスクを負って最初の一歩を踏み出した1人がいる。その人を「ソース」と呼ぶんだって。ソースが一歩を踏み出した瞬間に「クリエイティブ・フィールド(創造の場)」が生まれて、そこに人が引き寄せられ、それぞれの役割を担っていく。
ソース原理で見ると、役職の上下はなくても、「始めた人」を中心にした形はある、ということになるんだ。上から与えるものじゃなくて、一歩目から自然に生まれる、と考えるんだって。

相棒の会社でも、新しい取り組みのタネは、たいてい雑談やチーム間の情報共有の場で生まれるんだって。「この本をみんなで読んで共通認識にしよう」という動きも、新人どうしで得意・不得意を紹介し合う企画も、誰かが言い出して始まった。全社にまたがる取り組みも、声としては上がっていたけど、「やるぞ」と踏み込んだのは相棒自身だったんだ。決めきれずに相談した相棒も、踏み込んだ相棒も、同じ1人なんだよ。
相棒に見えていた「たぶんこれだ」という直観は、担う人としての感覚だったのかもしれないね。誰かに相談して背中を押してもらうのは、逃げじゃない。そのうえで、聞いたあとは、担う人が決めていい。ボクは、それがグリーンの罠を抜ける道なんだと思うよ。
群れの先頭のヒレは、命令じゃなくて「こっちだよ」の合図なんだね。
まずは「決める人」と「意見をくれる人」を分けて伝えてみようよ
次の話し合いで、最初にこう言ってみない?
「この件は、私が決めます。その前に、◯日までに意見をください」
聞くことはやめなくていい。変えるのは、決める人を先に言うことだけなんだ。
「私が決めます」って言うのは、独断みたいで怖いよね。でも、決める前に意見を聞いているなら、それは独断じゃなくて助言プロセスそのもの。決めたあとに「こういう意見をもらって、こう決めたよ」とひとこと返せば、聞いてもらえた実感も残るよ。言い切るのがまだ怖ければ、「言い出したのは私だから、みんなの意見を聞いたうえで、最後は私がまとめるね」でもいいんだよ。
群れが動き出すとき、最初のヒレは1匹からだったよね。次の話し合いで、そのヒレを少しだけ動かしてみない? 群れは、ちゃんとついてきてくれると思うよ。
- 🐋聞くことと、決めることを分ける
- 🫧最初に「誰が決めるか」を言う
- 🐚意見の締め切りを決める
- 🌊決めたら、理由をひとこと返す
ここまで一緒に潜ってくれてありがとう! 次はこっちも覗いてみてね。
自律型組織の「空いている席」も見てみる?
肩書きがなくなっても、なくならない役割がある。どこが空いているかを地図にした記事もあるよ。
書籍 · 2018フレデリック・ラルー
組織のあり方を色で5つの段階に分け、自主経営・全体性・存在目的を特徴とする「ティール(進化型)」の組織を、実際の企業の例から紹介した本。
ラルー, F.(2018)『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(鈴木立哉 訳, 嘉村賢州 解説). 英治出版.
解説記事ラルーの『Reinventing Organizations』の公式 Wiki
自主経営の意思決定は全員の同意で決まる、というのは誤解だと説明し、意見を聞いたうえで担う人が決める「助言プロセス」を紹介している。グリーンの段階では合意が重んじられる、と整理している。
書籍 · 2022トム・ニクソン
アイデアを実現するためにリスクを負って最初の一歩を踏み出した1人を「ソース」と呼び、その周りに人が集まって取り組みが育つ、という「ソース原理」を紹介した本。
ニクソン, T.(2022)『すべては1人から始まる――ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』(山田裕嗣・青野英明・嘉村賢州 監訳). 英治出版.
論文 · 2022リー
ゲーム開発のスタートアップを調べ、フラットな構造は発想を広げうる一方で、実行が散らかって市場で失敗しやすいことを示した研究。
論考 · 2017リーとエドモンドソン
自主経営の組織を「権限を組織全体に、正式かつ体系的に分散させる組織」と定義し、これまでの研究を整理して、その限界を調べる必要があると論じた。
論考 · 2019マルテラ
官僚制などと比べ、自主経営の組織も方向づけや調整といった組織の基本の問題を、上司以外の仕組み(仲間どうしの説明責任・情報の透明性など)で解いていると考えられる、と整理した。
書籍 · 2024ステファン・メルケルバッハ
ソースが最初の一歩を踏み出したときに生まれる「創造の場」に人が集まり、自然な協力関係が育つ、というソース原理の考え方を、入門と実践の手引きとしてまとめた本。
メルケルバッハ, S.(2024)『ソース原理[入門+探求ガイド]――「エネルギーの源流」から自然な協力関係をつむぎ出す』(青野英明・嘉村賢州 訳). 英治出版.

