「なんで分からないんだろう」って、思ってない?
「これ、意味あるのかな」。他のチームの資料を見て、つい口に出しちゃったこと、ない?
ボクが住む深海3000mには、光が届かないんだ。だから潜るときはライトをつける。照らした所は、びっくりするくらいくっきり見えるよ。でもね、ライトが強いほど、光の外側はかえって真っ暗に感じるんだ。
おじさん、お姉さん。あなたが見ている「本質」は、きっと本物だよ。ちゃんと考えて、全体を見て、「本来はこうあるべき」って言える。それは誰にでもできることじゃない。
だからこそ、苦しいよね。正しいことを言っているのに、周りが動かない。正論が通じないのは、相手の意識が低いから。そう思いたくなる夜もあるはず。
でも、もしかしたら。照らせている場所がくっきりしているぶん、光の外にいる誰かが見えにくくなっているのかもしれないんだ。
ねえ、そのライト、どっちを向いてるのかな?
同じ「入社からのジャーニー」なのに、見ている景色が違ったんだ
ボクの相棒がね、職場でこんな場面に出会ったんだって。
あるプロジェクトで、入社してから活躍するまでの道のりを描く「エンプロイージャーニー」を作っていたんだ。入社した人たちに話を聞いて、関係づくりと成長の支え方という観点で、ジャーニーを組み立てていた。
このテーマに関心はあるけど、そのプロジェクトには入っていないメンバーがいたんだ。その人が大事にしていたのは、全社員を採用や研修に巻き込んで、みんなで会社をつくる構造。その人は別の場で自分たちのジャーニーを作っていて、「その観点がないジャーニーって、意味あるのかな」というような、ちょっと皮肉まじりのことを口にしていたんだって。
相棒は、その考えは本質を突いていると感じたんだ。でも同時に、チームごとに見ている観点が違うとも感じた。
片方は「入った人が関係を築き、育っていけるか」を見ていて、もう片方は「みんなで会社をつくる仕組み」を見ていた。同じジャーニーという言葉で、違う山を登っていたんだよ。ボクから見ると、どちらも全体の一部を照らしていたんだ。どちらかが間違っていたわけじゃない。

相棒はそのとき、皮肉だなと感じたけど、反応せずにスルーしたんだって。皮肉の形のままでは、話し合いは始まらなかったんだ。
どっちも大事なのに、片方が「無駄」になっちゃうの、ふしぎだね。
よく見えているときほど、見えていない所に気づきにくいのかも
なんでこうなっちゃうのかな?
人はね、自分の見方を「ありのままの現実」だと感じやすいって言われているんだ。だから意見が違う相手は、偏っているか、分かっていないように映りやすい。しかも、他人の偏りはよく見えるのに、自分の偏りは見えにくい。偏りについての説明を読んだあとでも、自分の判断は客観的だと考えがちなんだって。思い当たること、ない? ボクはあるよ。

もう一つ、組織ならではの理由もある。部署やチームごとに、「何が大事か」を読む枠組みが違うんだ。大きな会社の製品開発を調べた研究では、同じ製品を見ていても、部門によって別の意味に読んでいたんだって。知識はそれぞれの仕事のやり方に根づいているから、チームの境目をまたぐと、同じものが違って見えるんだね。ジャーニーでも、きっと同じことが起きていた。あなたが「意味ある?」と思ったあの資料も、作ったチームからは、別の意味に見えていたのかもしれないよ。
ここで、ちょっとドキッとする話。「人はしょせん自分の得で動く」と冷めた目で見る人のことを、人は「賢い」と思いがちなんだって。でも、30か国・約20万人のデータで確かめると、むしろ逆の結果だったんだ。あなたの考えが浅いって話じゃないよ。冷めて見えることと、深く見えていることは、別のものなのかもしれないね。
言い方を柔らかくしたのに何も変わらなかったなら、それはあなたの努力が足りないからじゃないかもしれない。言い方だけじゃなくて、見えている景色の範囲の問題でもあるんだ。
ボクも、自分の泳ぐ海が世界のぜんぶだと思ってたよ。えへへ。
相棒も、見えているつもりだったんだって
実はね、ボクの相棒にも、見えているつもりの時期があったんだ。
以前、あるプロジェクトで、自分の意見を曲げずに進めたことがあったんだって。そのころの相棒は、「自分は誰よりも考えて、本質を捉えている」と思っていた。いま振り返ると、本質を突き詰めるあまり、メンバーの共感を得られなかったり、上司の意見を聞かなかったりして、傲慢になっていたって。
そのプロジェクトは、頓挫しちゃった。
相棒は後になって、「組織のことを考えられていなかった」と痛感したんだって。意見を曲げずに進むほど、人が寄りつかなくなっていった。見放されて、孤独に近づいていく感じがしたそうだよ。
相棒がいま思うのは、本質を捨てる必要はないってこと。相手の目的や背景を聞いて、自分の考えと重ねていけばいい。ボクの言葉で言うと、ライトを消すんじゃなくて、他の人のライトと重ねる感じかな。自分ひとりでは照らせなかった場所が、見えてくるかもしれないよ。
「正しいのに、なんで自分だけ浮いてるんだろう」って思ってたなら。それは、あなたの考えがまちがっているからでも、あなたが嫌な人だからでもないのかもしれない。照らしている場所が、まだ相手の光と重なっていないだけかもしれないんだ。いますぐ考えを変えなくていいよ。
正しさって、ひとりで抱えると、ちょっと重たいんだね。
想像するより、聞きに行ってみようよ
「じゃあ、相手の立場になって考えればいいんでしょ?」って思った? 実はね、相手の立場を想像するだけでは、相手の考えを当てる正確さは上がりにくいんだって。むしろ、自信だけが強まることもある。正確さが上がったのは、本人から直接聞いたときだったんだ。
相棒がいま大事にしているのは、相手にこんなことを聞くことなんだって。
- 🐋何のために、それをやっているの?(目的)
- 🫧どういういきさつで始まったの?(背景)
- 🐚いま、何に取り組んでいるの?(取り組み)
- 🌊その先に、どんな状態を目指しているの?(目指す姿)
聞いたら、自分が考える本質との差分を見る。どこが重なって、どこがずれているか。そこから、同じ絵を描けるように話していくんだ。
相手に聞きに行くのって、ちょっと負けた気がするよね。でも、聞くのは自分の本質を曲げることじゃない。自分の考えを、もっと確かなものにするための材料集めなんだ。
次に「これ、意味ある?」って言いたくなったら、その前にひとつだけ聞いてみてね。「これ、どんなところを大事にして作ったの? ちょっと気になって」って。
ライトの向きを、ほんの少しだけ相手のほうへ。それだけで、海の見え方は変わるかもしれないよ。チームの間で起きるすれ違いを、組織の構造から整理した地図もあるから、よかったらのぞいてみてね。
ここまで一緒に潜ってくれてありがとう! 次はこっちも覗いてみてね。
相手の側からは、どう見えている?
動かない相手には、動けない事情があることも。同じ海を、頼まれる側から見てみたよ。
論文 · 1995ロビンソンほか
意見が対立する場面で、人が相手の見方をどう思い込むかを調べた研究。自分の見方は合理的だと感じ、相手の見方は実際よりも偏っている・極端だと見積もりやすいことを示した。
論文 · 2002プロニンほか
3つの研究で、人はさまざまな偏りを自分より他人に強く見ることを示した。偏りの説明を読んだあとでも、自分の判断は正確で客観的だと考えがちだった。
論文 · 1992ドハティ
大きな会社の製品開発を調べた研究。部門ごとに物事を読む枠組み(thought worlds)が違い、それが技術と市場の知識をつなぐ妨げになることを示した。
論文 · 2002カーライル
製造業の製品開発で4つの職能を観察した研究。知識はそれぞれの職能の実践に根づいていて、職能の境目をまたぐと問題になることを示した。
論文 · 2018スタヴロヴァとエーレブラハト
人は冷笑的な人(人は自分の得のために動くと見る人)を賢いと思いがちなことを示した。一方、30か国・約20万人のデータでは、冷笑的な人のほうが認知や学業の成績が低かった。
論文 · 2018エヤルほか
25の実験で、相手の立場を想像するよう促しても、相手の考えを当てる正確さは上がらず、自信だけが上がることもあると示した。相手から直接聞くと、正確さが上がった。
