「誰でも決めていい」はずなのに
「同じことを言っているのに、あの人が言うと通るんだよな」――そう感じたこと、ないかな。
上司という役職がない組織で、「誰でも提案していいよ」「自分で決めていいよ」と言われている。だから思い切って提案してみたのに、なぜか話が止まる。しばらくして、同じような案を“あの人”が出すと、すんなり決まっていく。そのうち「自分の言い方が悪いのかな」「ここで意見を言っても、意味ないのかな」なんて考えちゃう。
深海3000mから見上げるとね、海の表面はどこまでも平らに見えるんだ。でも、深いところには潮の流れがあって、場所によって向きも強さも違う。流れを知っているクジラはすいすい進むけど、知らないクジラは、同じ力で泳いでも押し戻されちゃう。
表面が平らに見えるからこそ、流れがあることに気づきにくいんだよね。
がんばって泳いでるのに進まないと、自分のヒレを疑いたくなっちゃうよね。
肩書きが無くなったら、力も無くなったのかな?
でもね、ちょっと考えてみない? 肩書きが無くなったら、「決める力」も一緒に無くなったのかな。
ボクの相棒も、同じような組織で働いているんだ。
相棒の職場は、管理職という肩書きがない、自律型の組織なんだ。
でも実際に何かを決めるときは、肩書きは無いけれど、みんなのまとめ役のような役割の人に相談して、その人の承認をもらって決める形に近いんだって。
その人が言えば、そのまま通る。ほかの人が言うと、「じゃあ、あの人に相談してみよう」となる。
こういう組織では、「助言プロセス」という決め方がよく紹介されているんだ。誰でも決めていい。ただし決める前に、その決定で影響を受ける人や、詳しい人の意見を聞く。そういう約束なんだって。
でも相棒の話だと、「意見を聞く」はずのところが、いつのまにか「あの人のOKをもらう」になっているよね。肩書きは消えたのに、決める力は、どこかに残っている。
じゃあ、その力は、いったいどこに行ったんだろう。
ねえ、“相談”と“お伺い”って、どこでちがっちゃうんだろうね?
力は消えずに、見えなくなる
深海の底から眺めていると、人間の世界では、ずいぶん前からこのことに気づいていた人がいたみたい。
50年ほど前、リーダーを置かないことを大事にしていたグループを見ていた人がね、こう書いているんだ。「構造が無い」集団でも、構造が無くなるわけじゃない。仲のいい人たちの輪のような、見えない構造ができる。そしてその輪の外にいる人は、物事がどう決まっているのかを知ることも、「それはおかしいよ」と言うこともできなくなる。
「なんで決まったのか、よく分からない」って感じたことがあるなら、それはこの“見えない輪”の外側にいたからかもしれないね。
最近の研究でも、似たことが見えてきているよ。自律型の組織に変わろうとしていた5つの会社を調べたら、上下の関係がゆるんだあとも、大事だと思われた場面では、上の人が決める形に戻っていたんだって。みんなで決める形と、上から決める形が、混ざっていたんだね。
つまりね、肩書きが無いことと、力が無いことは、別のことなんだ。肩書きがあるときは、「誰が決めるのか」が目に見える。見えるから、「どうしてですか?」と聞くこともできる。でも肩書きが無くなると、決める力は残ったまま、見えなくなる。見えないものには、疑問を口にしにくいよね。
肩書きが無くなったときに起きることは、ほかにもあるんだ。成長を支える役割まで消えてしまう話は、自律型組織の記事でも潜ってみたよ。
見えない流れに押し戻されてたなら、ヒレのせいじゃなかったのかもね。
足りないのは力じゃなくて、地図だったんだね
ここまで潜ってみて、見えてきたことがあるんだ。
相棒はね、まわりの人をうまく巻き込んでいくには、相談しにいくこと自体は必要だと思っているんだって。相談するのが悪いわけじゃないんだ。
困るのは、そこじゃない。相棒が言うには、誰に、何を相談すればいいのかが見えにくいことなんだ。表の説明では「誰でも決めていい」。でも実際には、決め方の流れがある。その流れが、どこにも書かれていない。
だから、提案が止まったときに「自分の言い方が悪かったのかな」「自分には力が無いのかな」と思っていたなら、少しだけ見方を変えてみてほしいんだ。足りなかったのは、あなたの力じゃなくて、流れを知るための地図だったのかもしれない。
もやもやするのは、建前と実際がずれていることに、ちゃんと気づいているからだよ。それは、あなたが組織をよく見ているしるしでもあるんだよ。
地図が無い海で迷うのは、泳ぎがへただからじゃないよね。
まずは、決まり方の地図を描いてみようよ
じゃあ、見えない地図は、どうやって手に入れればいいかな。
相棒はね、「誰がどこに責任を持っていて、どの役割とどの役割が、どんな目的でつながっているのか」の仮説を自分で立てて、話しにいっているんだって。仮説が外れたら直して、また話しにいく。そうやって、少しずつ地図を描き足しているんだ。
だからボクからの提案は、まずこれ。
次に出したい提案を1つ決めて、「いちばん影響を受ける人は誰?」「これまで実際に決めてきたのは誰?」を2行だけ書いてみる
書けたら、その人に「決める前に、意見を聞かせてもらえますか?」と声をかけてみよう。これは、あの人の機嫌をとることとはちがうよ。流れがどこにあるかを知って、自分の提案をその流れに乗せるためなんだ。“お伺い”じゃなくて、“意見を聞きにいく”。相手が忙しそうなら、「5分だけ」と区切って頼んでもいいんだよ。
余裕があったら、こんなこともやってみてね。
- 止まった提案を1つ思い出して、どこで止まったかを書いてみる:流れの向きが、少し見えてくるよ
- 部署の外にも、話を聞ける人を探す:ちょっと離れた場所にいる人のほうが、流れがよく見えていることもあるんだ
地図は、最初から正しくなくていいんだ。外れたら描き直せばいい。平らに見える海の下の流れも、描き足していくうちに、だんだん泳ぎやすくなっていくよ。おともだちも、まずは1本、線を引いてみてね。
- 🐋肩書きが無くても、決める力は無くならない
- 🫧見えないから、もやもやする
- 🐚足りないのは力じゃなくて、地図
- 🌊「誰が影響を受けて、誰が決めてきた?」を2行で書く
ここまで一緒に潜ってくれてありがとう! 次はこっちも覗いてみてね。
組織のもやもやを、構造から眺めてみる?
「誰が、どこで決めている?」をふくめて、組織のもやもやが生まれる4つの場所を、深海から地図にしてみたよ。
書籍 · 2018フレデリック・ラルー
上下の階層に頼らずに運営している組織を各地で調べ、「ティール組織」として紹介した本。決め方の1つとして、決める前に影響を受ける人や詳しい人の意見を聞く「助言プロセス」を示している。
論考 · 1970年代ジョー・フリーマン
リーダーを置かないことを大事にしていたグループを見て、「構造が無い」集団にも仲間内の見えない構造が生まれ、その外にいる人は決まり方を知ることも異を唱えることもできなくなる、と論じた。
論文 · 2024コイスティネンとヴオリ
自律型の組織に変わろうとした5つの会社で、管理職18人と社員38人に話を聞いた研究。上下の関係がゆるんでも、大事な場面では上から決める形に戻り、2つの形が混ざっていたことを明らかにした。

