こんなこと、誰に聞けばいいんだろう
「こんなこと、誰に聞けばいいんだろう」――仕事でもプライベートでも、そう思って手が止まったこと、ないかな。
上司に聞くのは、なんだか気が引ける。同じチームの仲間に聞いても、みんな同じところで困っていて、答えが出てこない。そうやって、気づいたら自分の中だけで抱え込んでいる。
深海3000mでもね、似たようなことがあるんだ。同じ群れの仲間とはいつも一緒に泳いでいるけど、みんな同じ海しか知らない。でもときどき、別の群れの年長のクジラとすれ違うことがあってね。そのクジラが、ボクたちの知らない潮の流れや、えさの多い場所を、ぽろっと教えてくれたりするんだ。
いつもの群れの外から届くひと言が、思いがけず道を開いてくれる。おじさんも、お姉さんも、そんな経験があるんじゃないかな。
いつもの仲間だけだと、知っている海の広さも同じになっちゃうんだよね。
縦と横の関係だけで、足りてる?
でもね、ちょっと考えてみない? 職場の関係って、たいてい2つの向きでできているよね。
- 縦の関係:上司と部下。頼れるけど、評価が絡むから、弱いところは見せにくい
- 横の関係:同じチームの仲間。話しやすいけど、見ている景色が似ている
どちらも大事な関係なんだ。でも、この2つだけだと、相談できることにも、手に入る情報にも、どうしても限りが出てくる。
そこでボクの相棒が大事にしているのが、斜めの関係。相棒の言葉だと、「部署も立場も違う人」との関係なんだって。上司でも同じチームの仲間でもない、ちょっと離れたところにいる人だね。
相棒は会社で人事の仕事をしていて、いろんな人を見てきたんだ。斜めの関係が少ない人は、同じ部署の中だけで悩みを抱え込んでしまうことがあるんだって。相談できる先が、縦と横にしかないからなんだよね。
ねえ、困ったときに思い浮かぶ顔、同じ部署の人ばかりになってない?
助けは、いつもの輪の外から“たまたま”やってくる
深海の底から眺めていると、斜めの関係のおもしろいところが見えてくるんだ。
相棒がプライベートで不動産を買うかどうか考えていたときのこと。部署も違う、年次の高い人と一緒にご飯を食べていたら、たまたま不動産の話になって、その人の考えを聞けたんだって。相談しようと思って相手を探したわけじゃなくて、ご飯の中で自然に話題になったんだ。
この「たまたま」には、ちゃんと理由があるみたい。
人間の研究でね、転職のような役に立つ情報は、よく会う親しい友だちよりも、ときどき会う知り合いから届くことが多い、って言われているんだ。親しい友だちは自分と同じ世界にいるから、知っていることも似てくる。ちょっと離れた知り合いは、別の世界の情報を運んでくれる橋になるんだって。
会社の中でも同じことが言われているよ。部署をまたいだゆるいつながりは、ほかの部署の知識を探すのに向いていて、信頼があるときにいちばん役に立つんだって。一度会って終わりじゃなくて、会う回数を重ねていくことに意味があるんだね。
それに、働く人を支えるのも、上司ひとりだけじゃないんだ。同僚やほかの部署の人との関係が、キャリアの助けや心の支えになる、って言われているよ。
だから、困ったときに頼れる先が思い浮かばないのは、あなたの人付き合いが下手だからじゃない。輪の外にいる人と出会うきっかけが、まだ少ないだけなのかもしれないね。
相棒も、人事の仕事で他の部署の状況を知れたのは、斜めの関係のおかげだったんだって。
いつもの輪の外に、ボクの知らない海がいっぱいあるんだね。
逃げ場は、ふだんのご飯から育っていくんだね
ここまで潜ってみて、見えてきたことがあるんだ。
相棒が不動産の話を聞けたのは、困ってから相手を探したからじゃない。もともと一緒にご飯を食べる関係があったから、その場で自然に話が出てきたんだよね。
相棒は、斜めの関係が多いほど、いろんな部署の情報を「必要なときに、必要なだけ」手に入れやすくなると言っていたよ。でも、その「必要なとき」は、たいてい急にやってくる。そのときになってから一から関係をつくるのは、ちょっと大変なんだよね。
だから、同じ部署の中で悩みを抱え込んでしまうのは、その人が弱いからじゃないのかもしれない。関係が縦と横に閉じているから、相談できる先がそもそも見えていないんだね。
斜めの関係は、困ったときに急いで探すものじゃなくて、ふだんのご飯や雑談の中で、少しずつ育っていくものなんだね。
もしいま、まさに困っているなら、それでもだいじょうぶ。少し話したことがあるだけの人に「ちょっと聞いてもいい?」と声をかけるだけでも、斜めの関係の最初の一歩になるよ。
逃げ場は、困る前から少しずつつくっておくものだったんだね。
まずは、1回の雑談から
じゃあ、斜めの関係はどうやって増やしていけばいいかな。
相棒の会社には、斜めの関係をつくるための仕組みがあるんだって。部署がばらばらの少人数でグループを組んで、定期的に会社の予算でご飯に行くんだ。その仕組みで、斜めの関係は実際に広がっているんだって。
相棒自身のつながりは、その仕組みと、仲のいい同僚のつながりの両方から、少しずつ増えてきたんだ。
だからボクからの提案は、まずこれ。
仲のいい同僚が別の部署の人と話すとき、「一緒にいい?」と混ぜてもらう
ご飯がちょっと重たければ、ランチや、休憩中の5分の雑談でもいいんだ。知っている人が1人そばにいるだけで、初めての人とも話しやすくなるよ。
余裕があったら、こんなことも試してみてね。
- 会社に仕組みがあるなら、乗ってみる:部署をまたいだ集まりがあれば、まずは1回だけ参加してみる
- 1回で終わらせない:一度話した人と、もう一度話してみる。信頼は、会う回数の中で育っていくからね
相棒は、同じように悩んでいる人に、こう伝えたいんだって。
「社内の関係づくりに、少しずつでも積極的になろう。それが、自分のキャリアの助けになるから」
積極的に、といっても、いきなり大勢と仲良くならなくていいんだ。ボクは、1人ずつ、少しずつでいいと思うな。
いつもの群れの外ですれ違った年長のクジラみたいに、ちょっと離れたところにいる誰かが、思いがけず道を開いてくれることがあるよ。おじさんも、お姉さんも、まずは1回、輪の外の人と話すところから始めてみてね。
- 🐋縦と横だけでなく、斜めの関係を持つ
- 🫧友だちの友だちから、輪を広げる
- 🍚仕組みがあれば、まずは1回乗ってみる
- 🌊困る前から、少しずつ育てておく
ここまで一緒に潜ってくれてありがとう! 次はこっちも覗いてみてね。
組織の問題は、どこから生まれるんだろう?
「関係」のほかにも、役割・評価・意思決定という構造から組織を見る地図を、深海から広げてみたよ。
論文 · 1973マーク・グラノヴェッター
転職などの役に立つ情報は、親しい友人よりも、ときどき会う程度の知人から届きやすいことを示し、ゆるいつながりが別々の集団をつなぐ橋になると論じた。
論文 · 1999モルテン・ハンセン
大きな会社の部署どうしの知識のやりとりを調べ、部署をまたぐゆるいつながりは役に立つ知識を「探す」のに向いている一方、複雑な知識を「移す」には強いつながりが要ることを示した。
論文 · 2004レヴィンとクロス
ゆるいつながりから知識を得られるかどうかは、相手を信頼できるかで変わり、信頼できるゆるいつながりがいちばん役に立つことを示した。
論文 · 1985クラムとイザベラ
上司のようなメンターだけでなく、同僚との関係も、仕事の成長を助ける支えと、心の支えの両方になることを示した。
論文 · 2001ヒギンズとクラム
人の成長を支えるのは1人のメンターではなく、職場の内外にいる何人もの人とのつながり(発達ネットワーク)だ、という見方を示した。

