成長してるのか、わからなくなってない?
「自分、ちゃんと成長できてるのかな」――最近、そんな気持ちになったこと、ないかな。
深海3000mでもね、自分がどこまで潜れているのか、急にわからなくなる瞬間があるんだ。まわりに目印になる魚もいなくて、ただ暗い水がずっと続いてるだけ。前に進んでるのか、同じところをぐるぐるしてるだけなのか、自分では判断がつかなくなるんだよね。
ボクの相棒の会社にも、そんな瞬間があるみたい。相棒の会社には、上司という役職がないんだ。一人ひとりの自律を大切にする組織で、自分で考えて、自分で動く。聞くと、なんだか自由でかっこいいよね。
でも最近、相棒はこんなふうに感じているんだって。
- 自分がどっちの方向に成長していけばいいのか、わからない
- 効率よく、しっかり成長できているのか、わからない
- このままここにいて、成長していけるのかな
同じような気持ちは、相棒のまわりにも芽生えているみたい。おじさんも、お姉さんも、自由なはずなのに、なんだか海のまんなかでひとりぼっちみたいな気持ちになったこと、あるかな。
自由に泳げるのはうれしいけど、どっちに泳げばいいかわからないと、ちょっと心細いよね。
「自律」って、ひとりで全部やることなの?
でもね、ちょっと考えてみない? 相棒の組織では、自律という言葉が、こんな意味で使われているんだって。
「自分で考えて、自分で行動してね。その行動の責任は、あなた自身にあるよ」
そして、「成長は自分でするもの」「キャリアは自分でつくるもの」という考え方が広がっている。その中で、組織を動かす立場の人たちが、だんだん人の成長やキャリアに関心を向けなくなってきているんだって。
自分で決められるのは、すてきなことだよね。でも、「自分で決めていい」と「ひとりでなんとかしてね」は、同じなのかな。
自律を大切にしているはずなのに、気がついたら、成長を支えてくれる人が誰もいない。それって、本当に自律なのかな?
ねえ、「任せる」と「放っておく」って、どこがちがうんだろうね?
役職はなくせても、役割はなくならないんだ
深海の底から眺めていると、ここにも構造の穴が見えてくるんだ。
相棒はこう見ているよ。上司という役職をなくしても、人を支えるマネジメントの役割そのものは残っている。なのに、役職と一緒に、その役割まで手放してしまう意識が、誰も気づかないうちに生まれているんだって。
人間の研究でも、関わらずに任せきりにする放任型のリーダーシップは、「リーダーシップがゼロ」なんじゃなくて、害のある関わり方の一種だって言われているんだ。働く人たちを調べると、放っておかれていると感じる人ほど、自分の役割がはっきりしなかったり、まわりとぶつかりやすかったりして、それが心のしんどさにもつながっていたんだって。
Googleでも、「マネージャーって本当に必要なの?」という問いから調べたことがあるんだ。わかったのは、良いマネージャーの行動の一番目が「良いコーチであること」だったってこと。技術のことで細かく管理されるのは嫌だけど、キャリアのことはしっかり関わってほしい。そんな声も紹介されているよ。
上司のいない自律したチームで知られる、オランダの在宅ケアの組織にも、チームを支える「コーチ」がいるんだって。コーチは決める力を持たずに、問いかけたり、見えたことを映し返したりして、チームの成長を支えるんだ。
自律した組織でも、支える人はちゃんといる。だから、支えがほしいと思うのは、甘えじゃなくて自然なことなんだね。
上司がいなくても、支える人はいていいんだね。
空いていたのは、役割の席だったんだね
ここまで潜ってみて、見えてきたことがあるんだ。
組織を動かす立場の人たちの関心が薄れていったのは、その人たちが怠けているからじゃないのかもしれない。上司という役職を片づけたときに、成長を支える役割の席まで、いっしょに片づけてしまった。だから、その席に座る人がいなくなったんだね。
席が空いたままだと、成長もキャリアも、全部が一人ひとりの「自己責任」になっちゃう。それで、相棒みたいに「このままで成長していけるのかな」って不安になる人が出てくるんだ。
もしいま、「成長できていないのは、自分の努力が足りないからかな」って思っていたら、それだけで結論を出さなくていいんだよ。支える席が空いたままなら、ひとりで伸び悩むのは自然なこと。ここにいていいのかも、いますぐ決めなくていいんだ。
相棒はこう考えているよ。役職がなくても、役割はある。だから、ふつうの会社でいえば上司と部下にあたる関係の人には、相手の成長やキャリアに向き合う責任があるはずだって。
自律は、ひとりぼっちにすることじゃない。自分で決める人のとなりに、支える役割がちゃんとあることなんだね。
問題は人じゃなくて、誰も座っていない席のほうだったんだね。
空いている席に、名前を書いてみようよ
じゃあ、空いた席をどうすればいいかな。
ボクからの提案は、まずこれ。
支えてほしい相手を1人決めて、自分から頼んでみる
成長について話したい人を1人思い浮かべて、「月に1回、30分だけ、私の仕事を一緒に振り返ってもらえませんか」と頼んでみる。相手が忙しそうで気が引けるときほど、時間を小さく区切って頼むと、相手も返事がしやすいよね。空いている席に、自分から誰かを招いてみるんだ。
もし自分が支える側に立てるなら、こんなこともあるよ。
- つながりのある人は、席に座る:ふつうの会社でいえば上司と部下にあたる相手がいるなら、その人の成長とキャリアに向き合う。これは相棒の考えだよ
- チームで席に名前を書く:「成長を支える役割は、誰が持つ?」をチームで言葉にして決めてみる。決めないと、席はまた空いちゃうからね
実はね、相棒もまだ、この不安の中にいるんだって。成長の方向も、ここで成長していけるのかも、まだはっきりとはわからない。
だからこれは、答えにたどり着いた話じゃなくて、空いている席に気づいたところまでの話なんだ。
目印のない暗い海でも、となりで一緒に振り返ってくれる誰かがいれば、自分がどこまで潜れたのか、少しずつ見えてくるよ。おじさんも、お姉さんも、もし同じ不安の中にいたら、まずは1人、席に招きたい人を思い浮かべてみてね。
- 🪑役職はなくせても、役割は残る
- 🙋支えてほしい相手を1人決めて、自分から頼む
- 🧭つながりのある人は、成長の席に座る
- ✍️チームで席に名前を書く
ここまで一緒に潜ってくれてありがとう! 次はこっちも覗いてみてね。
組織の問題は、どこから生まれるんだろう?
「誰のせい?」の前に「どの構造?」を考えるための地図を、深海から広げてみたよ。
論文 · 2007スコグスタッドほか
ノルウェーで働く2,273人を調べ、関わらない・任せきりの上司のふるまいは「何もしていない」のではなく、役割のあいまいさや同僚との対立を通して、働く人の心の負担につながることを示した。
解説記事 · 2013デイビッド・ガービン
「マネージャーは要らないのでは?」という問いから始まった Google の社内調査を紹介し、よいマネージャーのふるまいの筆頭に「よいコーチであること」が挙がったことを伝えた。
書籍 · 2014フレデリック・ラルー
上下の階層に頼らずに運営している組織の事例を集めた本。上司のいないチームで知られるオランダの在宅ケア組織にも、決定権を持たずにチームを支える「コーチ」がいることを紹介している。
Laloux, F. (2014). Reinventing Organizations. Nelson Parker.
