「こんなこと、聞いていいのかな」って止まってない?
「こんなこと、わざわざ聞いていいのかな」
Slack の入力欄に文字を打っては、消す。相手の予定表は、今日も会議でびっしり。「もう少し自分で考えてからにしよう」って、画面を閉じちゃう。そんなこと、ないかな。
深海はね、光がほとんど届かないんだ。だからボクたちクジラは、ときどき短く鳴いて「ここにいるよ」って仲間に知らせ合うんだよ。声を出さずに泳いでいると、気づかないうちに群れから離れてしまうことがあるんだ。
ボクの相棒も、職場でそんな場面を見たんだって。
相棒の職場はリモートでね、近くの席に行って「ちょっといい?」と話しかけることはできないんだ。
そこで相棒は、ある人が仕事をひとりで進めているのを見たんだって。本当は早めに関係する人に相談して、巻き込んだほうがいい仕事だったのに、相談しないまま進めていたんだ。
相棒は、それで手戻りのコストがかかって、価値が届くまでのスピードも落ちてしまっている、と感じたんだって。
鳴けば届く距離にいたのに、声を出せなかったんだね。
自律って、ひとりで決めて進めることなの?
相棒はね、自分で課題を見つけて、企画して、進めていくのが、自律型の組織の基本の働き方だって考えているんだ。ティール組織なんかも、そのひとつだね。
そういう組織にいると、「自分で何とかしなきゃ」って思いやすいよね。人に聞くのは、なんだか自律できていないみたいで。自律とは、ひとりで決めて、ひとりで進めること。そんなふうに感じていないかな。
でもね、ちょっと考えてみない?
任せる度合いが大きいチームほど、実はお互いの確かめ合いが大事になるみたいなんだ。学生のチームを調べた研究だけど、仲がよくて確かめ合いが減ったチームでは、一人ひとりに任せる度合いが大きいほど、成績が下がっていたんだって。
相棒はね、自律型の組織だからこそ、価値を届ける相手にさくっと聞きに行けるかどうかが、仕事の質を大きく左右するって考えているんだ。
自律型の組織で、成長や仕事の進め方がひとりに任されすぎてしまう話は、自律型組織で感じる「このままでいいのかな」でもしたよ。
ひとりで泳げることと、ひとりで泳がなきゃいけないことは、違うんだね。
相談に行けないのは、勇気が足りないからじゃないかも
じゃあ、なんで相談に行けなかったんだろう。
相棒は、こんな順番だったんじゃないか、って見ているんだ。
- まず、相手との関係がまだできていなかった
- だから、相談しに行くハードルが高く感じた
- そこに「こんなことで聞いていいのかな」「相手が忙しそう」という理由が、あとからついてきた
遠慮や「忙しそう」は、行かない理由として、あとからつくられた言い訳に近いんじゃないか、ってね。根っこにあるのは、勇気の量より、関係のなさなのかもしれないね。
もしきみが「聞けないのは、自分ができないからだ」って思っているなら、ボクはそうじゃないと思うな。まだ関係がない相手に声をかけるのは、誰にとってもむずかしいことなんだ。いますぐ変わらなくていいよ。
助けを求めることには、見えない重さがあるんだって。病院で働く人たちを調べた研究では、助けを求めると「できない人」「頼りない人」に見られるかもしれない、と感じる人ほど、相談が減っていたんだって。その重さ、きみにも覚えがあるんじゃないかな。
おもしろいのはね、頼まれる側は、頼む側の気まずさを思っているより小さく見積もりがちだ、という実験もあることなんだ。聞く側は「迷惑かな」と何度も迷っているのに、聞かれる側は、その迷いの重さにあまり気づいていない。すれ違っているんだね。
しかもリモートだと、関係そのものができにくくなるみたいなんだ。Microsoft の6万人を超える社員のデータでは、全社でリモートになったあと、チームをまたぐつながりが減って、協働する相手も固定されやすくなったんだって。近くの席に行けない職場では、関係は放っておくと育ちにくいのかもしれないね。
声が出なかったのは、のどのせいじゃなくて、まだ仲間の居場所を知らなかったからなんだね。
心理的安全性は、“声をかけられる関係”から育つんだね
ここで出てくるのが、心理的安全性という言葉なんだ。「このチームなら、疑問や失敗を口にしても大丈夫」と、みんなが感じられることだよ。
ある製造会社の51チームを調べた研究では、そう感じているチームほど、学びにつながる行動(質問や相談など)が多くて、その行動を通じて成果ともつながっていたんだって。
自律型の組織は、一人ひとりに判断を預けて回るよね。預けたぶん、困ったときに声をかけ合えることが、そのまま仕組みの一部になるんだと思うんだ。相棒はね、心理的安全性がないと、ひとりの手戻りが増えるだけじゃなくて、「ここ、こうしたらもっとよくなるかも」っていう組織をよくするための声まで埋もれていってしまう、と考えているんだ。気がかりを口にできずに話が止まってしまう例は、「頼んだのに反応がない」とイライラしたらでも話したよ。
だからボクは、心理的安全性って、ふんわりしたやさしさじゃなくて、自律を回すための土台なんだと思うな。
ただ、言いやすさはゆるさとは違うんだって。お互いに責任を持ち合うチームとセットで、はじめてうまく働くみたい。
群れで自由に泳げるのは、鳴けば誰かが返してくれるって知っているからなんだね。
まずは「15分だけ話せますか?」の一文から
関係がないから、声が出ない。だったら、関係から先につくればいいんだ。
相談したいのに行けないきみへ。 相棒は「少しだけ勇気を出してほしい」って言ってたよ。でもその勇気は、一文ぶんの小さなものでいいんだ。
Slack で「一度、15分だけ話せますか? 急ぎじゃないので、空いたときで大丈夫です」と一文送ってみる。
きみがどれだけ迷ったかは、相手には案外見えていないものなんだって。だから、うまく言えなくても一文で十分だよ。いきなりが重かったら、相手をよく知っていそうな人に「〇〇さんと少し話してみたくて」とつないでもらうのもいいよ。
メンバーをつなぐ側の、人事や先輩へ。 相棒がやっている方法を紹介するね。
相棒は後輩のために、後輩と、後輩につなぎたい人と、自分の3人で、30分の場を押さえるんだって。最初は雑談から入って、関係をつなぐ。それから、後輩が抱えている本題を、軽く壁打ちする。もっと話したほうがよさそうなら、その話だけの場を別につくるんだ。
相棒は人事として、部署をまたいだ「斜めの関係」をつくる全社の仕組みも運営していて、もっと広く、自然に関係が生まれる方法を試しているところなんだって。仕組みのことは、「職場に相談できる人がいない」と感じたらで話したよ。
相棒の願いはね、いつか後輩が、自分からいろんな人に話しに行けるようになること。つなぐ場は、そのための最初の一回なんだ。
深海でも、最初のひと鳴きは小さくていいんだ。「ここにいるよ」って届けば、誰かが返してくれるかもしれないよ。
- 🐋自律は、ひとりで抱えることじゃない
- 🫧行けないのは、勇気より関係の問題かも
- 🐚心理的安全性は、自律を回すための土台
- 🌊まずは「15分だけ話せますか?」の一文から
ここまで一緒に潜ってくれてありがとう! 次はこっちも覗いてみてね。
困ったときの“逃げ場”を、ふだんから育てておく?
部署をまたいだ斜めの関係が、困ったときにどう助けになるのかを話したよ。
論文 · 2004ラングフレッド
自分たちで仕事を回す71の学生チームを調べた研究。信頼が高いとお互いの確かめ合いが減り、一人ひとりに任せる度合いが大きいときは、信頼の高いチームほど成績が低かったことを示した。
論文 · 2002リー
大きな病院の医師と看護師を調べた研究。助けを求めると能力が低い・頼りないと見られるという負担があり、その負担を感じるほど助けを求めることが少なかったことを示した。
論文 · 2010ボーンズとフリン
実験から、助けを頼まれる側は、頼む側が感じる気まずさを小さく見積もりがちで、そのぶん頼まれる回数を多く見積もってしまうことを示した。
論文 · 2022ヤンほか
Microsoft の6万1千人を超える社員のやりとりのデータから、全社リモートへの移行後、チームをまたぐつながりが減り、協働のつながりが固定されやすくなったことを示した。
論文 · 1999エドモンドソン
ある製造会社の51チームを調べた研究。チームの心理的安全性は学習行動と関連し、その学習行動を通じてチームの成果とつながっていたことを示した。
論文 · 2023エルドールほか
5つの研究から、心理的安全性の風土は中くらいまでは成績とプラスに関係するが、高すぎると定型的な仕事の成績が下がりうること、お互いに責任を持つ風土があるとその悪影響が和らぐことを示した。

