なんで社内イベントの効果って説明しにくいの?
予算会議で沈黙してしまうあの感覚——あれはおじさんのせいじゃなかったんだよ。「説明できない」の正体を、ボクが深海から解説するね。
— SECTION 01 · EMPATHY —
「このイベント、意味あるんですか」——その沈黙、ボクが見てたよ
深海の底って、音がほとんど届かないんだよね。でも水圧は確かにそこにある。見えなくても、圧はある。おじさんの職場で起きてることも、ちょっとそれに似てるなって、ボクは思ってたんだ。
四半期末の予算レビュー。おじさんはスライドを前に、「社内交流イベントの継続申請:予算50万円」って説明してる。「目的は?」「エンゲージメント向上です」「売上にどう影響しますか」「……間接的に、離職率が下がったり」。
そこで、沈黙が来るんだよね。ボク、その沈黙を観察してたんだけど、あれって「担当者の能力の問題」じゃなかったんだよ。頭の中には確信があるんだもん。先日のイベントで、ふだん話したことなかった営業とエンジニアが話し込んでた。そこから新機能の提案が生まれた。あの会話がなければ、そのアイデアは生まれなかった——でも、それを「数字」に変換する言葉が、見つからない。
それ、おじさんのせいじゃないんだよ。説明できないのは、施策が無意味だからじゃなかったんだ。ボクにはよくわかんないや。でも、なぜかは知ってるよ。
「その沈黙に名前をつけてあげたくなったんだよね。『構造的な測定困難性』って言うんだって。かっこいい名前でしょ。おじさんの能力とは、全然関係なかったんだよ」
— ボク、会議室には入れてもらえなかったから、ここで言うね —
— SECTION 02 · INSIGHT —
ねえ、「線形」って何だよ——組織って海みたいなものじゃないの?
「施策→成果」って、まるで「えさ→魚が釣れる」みたいな話じゃない?ボクの海ではそんな単純な話はほぼ起きないんだけど。おじさんたちが「エンゲージメント施策を打ったのになぜ売上が上がらないんだ」って言うときの頭の中には、こういう直線が描かれてるんだよね。「投資1→成果1」。でも深海で1の水流を起こしても、魚がどこに動くかは全然予測できない。
組織は「複雑適応系」というやつなんだって、ステイシー(1995)って人が言ってた。複雑適応系って何かというと、「インプットとアウトプットが比例しないシステム」のことだよ。1の投資が1の成果を生むんじゃなくて、ある日突然10の変化が起きたり、何も起きなかったりする。
スノーデンのサイネフィン・フレームワークでは、「複雑な環境では、パターンは事後にしか認識できない」って言うんだよ。つまり「あのイベントがこのチームの連携を生んだ」という因果関係は、結果が出た後にしか「物語」として語れない。これは測定の「技術的問題」ではなくて、「認識論的な問題」なんだよ。
組織・生態系・経済のように、多数の要素が相互作用して動くシステムのこと。インプットとアウトプットが比例せず、因果関係は事後にしか語れない。「施策→即効果」という線形思考では評価できない領域。
「『なぜ数字で説明できないの?』って聞くの、深海に『なぜ暗いの?』って怒るのと同じだよ。構造がそうなってるんだもん。ボク、認識論って言葉、今日初めて使ったよ」
— ボク、ちょっと賢くなった気がするんだよね —
— SECTION 03 · MECHANISM —
ボク、なんで弱いつながりの方が強いのか不思議だったんだよね
海ってさ、遠くの生き物の方が知らない情報を持ってるんだよ。近くにいる仲間は大体同じものを食べてて、同じ水路を知ってる。でも遠くから来た見知らぬイルカは、ボクが知らないプランクトンの群れを知ってたりする。
グラノヴェター(1973)っていう人が、これとほぼ同じことを証明したんだって。「弱い紐帯の強さ」って言う研究で、情報伝達において最も重要なのは親密な強い結びつき(チーム内の密な関係)じゃなくて、異なる集団をつなぐ「弱い紐帯」——要するに「なんとなくの知り合い」なんだって。強い紐帯でつながった集団は、似た情報を持ち、似た視点を持つ傾向がある。弱い紐帯は「異なる情報回路に橋をかける」んだよ。
社内イベントの本質って、この弱い紐帯を組織内に生成することにあるんだよ。ふだん接点ゼロの営業とエンジニアが、業務外の場でひとこと言葉を交わす。それは情報回路の拡張であり、組織のネットワーク密度を高める構造的な投資なんだよ。
「情報伝達において最も重要なのは、異なる社会集団をつなぐ弱い紐帯(casual acquaintanceships)である。強い紐帯でつながった集団は同質的な情報を持つが、弱い紐帯は異なる情報回路に橋をかける。」
— Granovetter, M. S. (1973). The Strength of Weak Ties. American Journal of Sociology —
そしてデュルケーム(1912)っていう昔の人が言った「集合的沸騰」って概念がある。人々が共に集まり、同じ体験を共有するとき、個人の意識を超えた「何か」が生まれて、集団の連帯感が更新される。2022年のメタ分析でも、集まりにおけるこの沸騰効果が社会的結束感と正の関連を持つことが確認されてるんだよ。
社内イベントって、ただの「楽しい経験」じゃなくて、「組織という有機体が自身の結束を更新するための原始的なメカニズム」だったんだね。研修は個人の能力を高め、1on1は個人間の関係を深める。でも「私たちはともにここにいる」という感覚は、集合的な場でしか生まれない。研修では代替できないんだよ。
「『研修があればイベントは要らないんじゃないですか』って言うの、魚が『泳げるから水は要らない』って言うのと同じじゃないかな。ボクにはよくわかんないけど」
— ボク、たとえが上手くなってきた気がするんだよね —
— SECTION 04 · REALIZATION —
「成果」じゃなくて「条件」を育てるってことだったんだね
ニューヨーク大学のバルーク・レフ(2001)って人が「組織資本(organizational capital)」って言葉を使ってて、これが企業の競争優位を生む主要な源泉であることを示してるんだよ。組織資本の推計値は5年後の業績とも正の相関を示すんだって。今の組織資本が、5年後の業績を決めてるってこと。
でも、会計システムは組織開発への投資を「費用」として処理して、「資産」として認識しない。これは制度の問題であって、その投資が無価値であることを意味しないんだよ。「費用」と呼ばれてるけど、実態は「資産」への投資——そのギャップが、説明のしにくさを生んでたんだよ。
エドモンドソン(1999)の心理的安全性の研究もそう。心理的安全性は「成果」じゃなくて「先行条件」なんだよ。チームが失敗を恐れずに発言できる環境があるかどうかは、6〜10週間後に「問題の早期発見件数」「提案数」として現れて、その後に業績・品質・離職率という遅行指標に波及する。
シャウフェリ&バッカーが開発したエンゲージメント指標(UWES)も、今の状態を測って将来の業績を「予測する」先行指標として機能するんだよ。施策が有効でも、効果はすぐ売上に現れない。先行指標の変化を見ることなく遅行指標だけで評価すると、有効な施策が「成果なし」と判断されてしまう。測れなかったんじゃないんだよ。「何を」「いつ」測るかという言語が間違ってたんだよ。
「『エンゲージメントが上がったか今すぐ測れるか?』って聞かれたとき、『6ヶ月後に見てください』って言えない環境が、全部おかしかったんだね。言語が間違ってたんだよ、おじさん」
— ボク、やっと構造がわかったよ —
— SECTION 05 · ACTION —
じゃあ、明日から何て言えばいいの?——ボクが言葉を貸してあげるよ
道路って、「この道路が生み出した経済効果は?」って単体で測定するの、すごく難しいじゃない。でも道路がなければ流通が止まって地域経済は成立しない。道路の価値って、その上で起きる無数の経済活動の集積として遅行的・間接的に現れるんだよ。社内イベントが生む弱い紐帯は、情報が流れるための「道路」なんだよ。集合的沸騰が更新する結束感は、「ここで働く意味」を感じるための「土台」だよ。
だからおじさん(お姉さん)、明日の会議でこう言ってみてよ。「これは組織の情報回路を維持するためのインフラ投資です。道路の整備と同様に、効果は間接的・遅行的ですが、なければ組織の機能が低下します」って。
直接効果(当日〜1週間後):参加満足度、新規接点の数
中間効果(1〜3ヶ月後):異部署間コミュニケーション量、「誰に相談すればいいかわかる」感覚の変化
最終効果(6〜12ヶ月後):離職率、提案件数、部門横断プロジェクト数
「今日は直接効果を報告します。中間・最終効果は6ヶ月後に確認します」と言えるだけで、批判への返答が全部変わるよ。
定量と定性は、競合するものじゃなくて補完し合うものだよ。あのイベントで生まれた会話がどんなプロジェクトにつながったか——そういう事例の連鎖を意識的に集めていくことも、同じくらい大事な仕事なんだよ。説明できなかったのは、施策が弱かったんじゃない。言語が違ってたんだ——ボクはそう思ってるよ。
「『社会のエントロピーに抗い続けること』って、かっこいい言い方だなってボクは思うんだよね。組織って放置すると自然に分散してサイロ化していくんだって。それに抗う仕事が、組織開発だったんだね、おじさん」
— ボク、なんか仕事したくなってきたよ(鯨だけど) —
— SUMMARY · ボクのお告げ —
今日の深海から、5つのお告げ
— Deep Dive —
「言語が違ってた」だけで、
仕事の意味は変わるんだね
組織開発の「説明しにくさ」の正体は、施策の弱さじゃなかったよ。複雑な現実を線形の言語で語ろうとしてた——そのギャップが、沈黙を生んでたんだよ。ボクの深海には、まだまだ語られてない話がたくさんあるんだよね。
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